世界の中心で平和を叫ぶ。 101
「何バカなこと言ってんだ!?
要は傷口に触らなきゃいいんだろ?
誰か拭くものをたくさん持ってきてくれ!」
苦痛に悶える異形の怪人を見た啓太は、彼を溶かす液体など恐れもせずに治療しようとしたのだ。
その行為に周囲の女怪人たちは大いに戸惑う。
主である啓太の命令は絶対だ。だが彼の身の安全を守ることも当然の義務であり、無視することはできなかった。
相反する命令に戸惑う怪人たちに耐えられなくなった啓太は、脱ぎ捨てられた女怪人の服を手にとって彼の元に駆け寄る。
あまりに無防備な近寄り方に、異形の怪人はとっさに距離を取り、女怪人たちはあわてて啓太を押さえ込む。
「こっ、こらっ!?何をするんだ!?
早く手当てしてやらないと、傷が悪化しちゃうだろ!?
「ダメです、啓太さま!アレは啓太さまのお考えになっている以上に危険なものなんです!
適切な治療方法がわかるまで触ってはなりません!」
「んなモン待ってたらアイツの右手が溶けてしまうわいっ!?
触んないからは〜な〜せ〜っ!」
「ダ〜メ〜で〜す〜っ!!」
治療しようとする啓太とそれを阻止する女怪人の群れ。
それを見ていた異形の怪人は、ある1つの選択を決めた。
「・・・いいでしょう、啓太さま。
お望みどおり、治療をお願いします。ただし・・・」
異形の怪人はそう言うなり、いきなり残された左腕を高々と上げる。
そして・・・!
ザシュッ!
鋭い鉤爪のついたその手を振り下ろした!
「ぐっ・・・おおぉ・・・ッ!」
「・・・なっ、何やってんだ、アンタ!?」
その光景に、啓太は思わず自分の思いを口にした。
当然だ。目の前のケガ人が治療しようとした途端、いきなり自分の右腕を切り落としたのだから。
傷口からは赤い鮮血が噴水のようにほとばしる。
「すっ・・・鈴!空!誰でもいい!早くコイツの血を止めてくれ!
このままじゃ死んじまうっ!」
あまりの光景に一瞬呆然とした啓太は、異形の怪人の傷口を押さえ、あわてて女怪人たちに治療を頼む。
右腕を切り落としたことで啓太の身の安全を確保できた鈴たちは、今度は迷うことなく啓太の命令に従ったのであった。
それから10分後。異形の怪人は何とか一命を取り留めた。
しかし切り落とされた右腕は元に戻ることはなく、地面に転がったままだ。
そんな中、怒鳴り散らしたい衝動を抑えながら、啓太は異形の怪人に尋ねた。
「・・・何であんなバカなマネをした?」
「あのままでは啓太さまが溶解液に触れる恐れがあったからです」