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闇の牙―牝狼―
官能リレー小説 - SF

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闇の牙―牝狼― 10


泰司には度の過ぎたセクハラの…。
充分にその対象になっていた。
現に早速、仕掛ける泰司。
冴子のうなじの辺りに口を近づけて…。
「彼氏とかいるの?冴子ちゃん」
ネッチっこい言葉を吐きかけ。
在庫チェックをしようとしていた冴子の手を握ろうとする泰司。
その手を払い退け、素早い動きで身をかわす冴子。
垂れた前髪の陰で度の厚いレンズがキラッと光る。
「逃げる事ないじゃん」
その冴子に手を伸ばそうとした泰司。
「……!」
次の瞬間、自分の手の甲に深い傷を負い血を流している事に気づいた。

泰司の肉のついた中年顔が凶暴に歪む。
「この!」
強姦魔の側面を垣間見せながら冴子に掴みかかる泰司。
逃れようと藻掻いた冴子の眼鏡が外れて落ちた。
柳の葉の様に形の良い眉。
黒々とした美しい瞳が。
前髪の隙間に顕になる。
思いもよらなかった冴子の美しさに泰司は歯止めが利かなくなっている。
「やめろ…」
絞り出す様な冴子の声も尚更、泰司を奮い立たせた。
だが…その声が。
内なる物を抑えようとしている冴子の声とは。
気付くよしもない泰司。
「大人しくしろよ!」
冴子のコンビニ制服に手をかけた。
泰司は冴子を、ごくごく普通の女として扱っていた。

ある大量殺人事件の実態が、職場ストレスに耐え兼ねながら密かに特殊部隊訓練を受けたダメ親父ワンマンアーミーの復讐劇、という噂。

ゾンビかグールかヴァンパイアか、薬物中毒のバットトリップで生ける屍と化した患者が夜な夜な病院を脱け出し徘徊している、という噂。

…そして…強姦魔の一団が獣人に襲われた…という噂…。

そんな夢とも現実ともつかぬ『噂』なんぞ、彼は歯牙にもかけていなかった。


冴子の瞳が黄金色の光に包まれ始めても…。
その『噂』の中のひとつが目の前で現実となってゆく事にまだ気づかない泰司。
「ずいぶん変わったカラコンじゃねぇか!」
目の前の事象を…自分の理解の範疇に無理矢理ねじ込む。
そして、その勢いで冴子の引き裂いた。
小ぶりたが形の良い乳房が片方…剥き出しになる。
が…。
冴子はもう露になった肌を隠そうとはしない。
しない代わりに。
鼻筋の通った鼻梁に幾重ものシワを寄せ。
白く美しかったであろう歯並びは…肉食獣のそれにみるみる変わってゆく。

その牙を伴った歯茎がメリメリと冴子の口を裂くように突き出してくる。
理解を越えて初めて恐怖を感じる泰司。
血走った目を見開き…小刻みに震えだす。
恐怖のあまり声も出ない。
メタモルフォーゼ。
目の前で起こっているそれはまさにそれであった。
剥き出しだった冴子の白い肩も黒く太い直毛に覆われ始めた。
そして。
グルルル――。
白い靄と怒れる獣の唸りが。
冴子だったものの口から漏れ出た。
「うわぁぁぁ!」
やっと泰司の口からザラついた悲鳴が溢れる。
自分の生命があと僅かである事を悟ったようであった。

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