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闇の牙―牝狼―
官能リレー小説 - SF

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闇の牙―牝狼― 11


その泰司の目の前でなにか動いた。
それは先程、泰司が握ろうとした白い手。
その手とは似ても似つかない黒い剛毛に覆われた手。
黒く鋭い爪を指先に携えていた。
その手がユラッと揺れた。
次の瞬間。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
脳天が痺れる様な衝撃、火花が散るような痛みを感じる泰司。
「あぁぁぁぁぁ!」
目の前が赤とも黒ともつかない色で一色に染まる。
「いだぁぁぁぁ!」
猛烈な痛みにもんどり打って倒れる泰司。
自分では瞑っているつもりの両目に手をやると…。
あるはずの両眼球の膨らみがなかった。
もう少し早く冴子の変貌、メタモルフォーゼに気付いていれば、懐に隠した未登録お目こぼしの小型拳銃で多少なりとも生存の糸口も掴めただろう。

そうして多少なりとも手傷を負わせつつ、経営者権限で正規の備品と認められたショットガンをロッカーから引っ張り出して応戦しつつ、自らの暴挙を棚に挙げながらも警察を呼ぶ事も出来たであろう。

…が、既に彼は惨劇の主人公そのものであり、アングラ雑誌の片隅を飾る文字通り数行の『噂』話になりつつあった。

フゥ―フフ―。
そして視覚を失った泰司は顔面に怒れる獣の吐息を感じた。
「た…助けて…助けてくれ!」
ぽっかりと穴の空いた両眼底から血の涙を流す泰司。
心からの命乞いだった。
だが…それは無駄な命乞いだった。
その証拠に…。
次の瞬間、泰司の頸部の殆どの肉と骨が抉り取られた。
泰司の全ての感覚がブチッと途切れた。
泰司が『噂』のひとつになった瞬間だった。


恵理奈と清吾に指令本部経由で鑑識員よりその連絡が入ったのは。
二人が警察病院を出て数時間が経った時だった。

特殊警ら車両のダッシュボードに備え付けられた簡易プリンター。
そのプリンターが三つの生首の身元。
それを記された用紙をプリントアウトしてきた。
無言でその用紙を手にする恵理奈。
やはりと言っていいのか。
三人ともしっかりと前科持ち。
そして三人揃って金龍会の準構成員であった。
金龍会…新宿蕪木町一帯の裏を取り仕切る広域暴力団のひとつ。
東京では最凶と言える組織だった。
また三人の欠片からは多量の合成麻薬『クラック』が検出されていた。
この『クラック』の密売も金龍会の太い収入源の一つであった。

詳細内容によると美紀を守るべくした『雅人』による応戦の形跡が見られていた。

三名分の肉塊及び肉片から、雅人名義で登録された…諸般の事情から正規に民間放出されている…旧型ニューナンブの弾頭が5発検出されていたのだ。

彼の射撃技術で、麻薬常用者相手にどの程度バイタルゾーンを捉えていたか書類上では不明。
ただしその5発から登録済旋条痕の他に、肉食獣らしき歯型が検出されたという。

「草食系男子とやらにしては中々頑張ったじゃないか、獣は五臓六腑を優先してかぶりつくから。」

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