闇の牙―牝狼― 33
例によってジャケットのポケットに両手を突っ込み…。
小声で流行りの歌でも口ずさむ様な顔。
何処にいてもその可愛らしいさが…周りの注意を惹く恵理奈であった。
その後ろにはやはり、何時もの様に清吾いる。
見た目だけで考えれば若いカップルではあるが。
店の中でたむろしていた。
スキンヘッドやドレッド、鼻ピアスやタトゥー。
様々なゴロツキやストリートギャング達に俄かな緊張が走る。
その中の数人は恵理奈や清吾の正体を知っている為の緊張である。
知らない連中にとっても…。
その恵理奈の容姿。
それが逆に警戒心を孕んだ緊張を生み出さずにいられなかった。
たが…そんな縄張りを侵された野生動物達の張り詰めた緊張の中。
ブラブラと男子クラスの中を歩く女子高生のような恵理奈。
意味深な視線を露骨に投げ掛けてくる連中には…。
キモいんだよ……とばかりの冷たいガンつけ。
一触即発な雰囲気が益々濃くなるが。
恵理奈の態度はあくまでもキモい、ウザい。
その域を出ていない。
それが却ってゴロツキ達に意味不明の恐怖感を植付けている。
しかし…。
ひとり。
いや…ひとグループ。
クスリで脳ミソが破綻しているグループがいた。
見るからに黒人とのハーフ。
金髪モヒカン。
顔面タトゥー。
スキンヘッドの四人組であった。
「ねーちゃん!ちょっとやらせろよ!」
いった目つきの顔面タトゥーが恵理奈の腕を掴み。
金髪モヒカンがナイフを清吾に突き付ける。
四人組のイカれたゴロツキは真剣に恵理奈をレイプするつもりらしい。
だが…。
当の恵理奈。
チッ――。
小さく舌打ちすると面倒くさそうに顔面タトゥーを見つめ返す。
この手のゴロツキだ。
不法に拳銃は所持しているであろう。
だが狭い室内、無闇に銃を使えば誰に当たるか判った物ではない。
そこで出したナイフだ。
使う気は満々と言ったところであろう。
だが使う気があろうが、なかろうが。
恵理奈にとってはどうでもいい事。
『こいつら…殺す』
その事だけしか頭にない。
その金髪に違い茶髪の髪の小さな頭が。
小さく鋭く動いた。
頭頂部と額の中間部を顔面タトゥーの鼻頭に叩き込む恵理奈。
ガツッ!――。
「うおぉぉ!」
鈍い衝突音と鋭い衝撃に襲われる顔面タトゥー。
まさか…こんな女が頭突きとは。
そう思いながらも涙をボロボロと流し。
血塗れになった折れた鼻を押さえる顔面タトゥー。
ナイフを振るう余裕はない。
そして次の瞬間。
鋭く蹴り上げられた恵理奈の爪先が顔面タトゥーの睾丸を叩き潰す。
「うごぉぉぉ!」
立ったまま悶絶する顔面タトゥー。
「やろっー!!」
その光景に他の連中も反応を起こすが…。
恵理奈の動きの方が早かった。
手刀の形で水平に振られた手が…。
黒人とのハーフの両目に叩き込まれる。