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闇の牙―牝狼―
官能リレー小説 - SF

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闇の牙―牝狼― 4


今は滅多にお目に係らないオイルライターをカチリと鳴らして…くわえた煙草に火を着ける恵理奈。
濃厚な煙が車内に広がる。
この煙こそが恵理奈が『わかば』を愛し続ける理由であった。
だが清吾は…。
無駄な足掻きと判りつつも、派手に咳き込んでみせた。
依然と不機嫌な顔で濃厚な匂いの煙を吐き出し続ける恵理奈。
やはり無駄な足掻きだった。
「東…機嫌悪いなぁ?」
足掻く事を止め笑いかける清吾。
媚びた声ではあるが“恵理奈ちゃん”とは流石に呼べない。
「三人殺られたくらいで…なんでアタシらの出番なんだよ」

その声は…。
その見かけに違わずに非常に可愛らしい物であった。
もっともセリフの内容には可愛らしさの欠片もないが…。
「まぁ…どこも人不足なんだろ」
頼りなげに微笑み続ける清吾。
人不足…確かにこの時代。
警察に勤めるなんて真似は命を売るのに近い行為でもあった。
「チッ!」
遠慮のない舌打ちをして窓の外を眺める恵理奈。
清吾も取ってつけた様に愛想笑いを浮かべたきり…。
前だけを見て黙りこくってしまった。

現場に到着した恵理奈と清吾。
既に現場には鑑識を始め…数名の警官が到着していた。

規制線を跨ぎ越える恵理奈と清吾。
その姿に気づいた警官たちが敬礼を向けてくるが…。
恵理奈は一切無視。
清吾は軽く受け流した。
…にしても。
確かに現場の惨状は壮絶だった。
枯れた芝生に広がる赤黒い血溜まり。
そして血のスープに浮かぶ具材の様に。
元人間だった肉片がゴロゴロと転がっていた。
「これが…三人分か?」
口許を押さえ眉間にシワを寄せる清吾。
込み上げる苦い物を堪えながら…近くの警官に尋ねた。
「はい…一応、見つかっている頭部は三つです」
清吾と同じ様に顔をしかめ答える警官。

そんな清吾のやり取りには一切の興味を示さずに。
恵理奈は散らばった肉片を念入り調べていた。
それらの肉片。
辛うじて、どの部分か判る物もあれば。
まったく、どの部分か判らない物もあった。
中には見るからに臓物らしき物も。
どれもが血の匂いを放って散乱していた。
恵理奈は黙ったまま…その肉片の一つの前にしゃがむと。
無造作に素手で摘み上げた。
ちなみに今の警察に現場保全などと言う考えは存在しないに等しかったが…。
だからと言って素手で触れる様な代物はなかった…普通は。

だが生憎、恵理奈は普通ではなかった様だ。
そんな恵理奈が摘み上げた肉片。
指は四本付いているが…手のひらと言うには小さ過ぎた。
自分の顔の辺りまで持ち上げてしげしげと見つめる恵理奈。
その様子はあたかも小物の吟味している今時の女の子だが…。
恵理奈が手にしているのは…。
手相で言うところの感情線の辺りで千切れた。
手のひらの先の部分であった。
「ふ〜ん」
そして恵理奈は何かに気がついた様であった。

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