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闇の牙―牝狼―
官能リレー小説 - SF

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闇の牙―牝狼― 3



翌朝…。
高城公園で惨殺事件発生の一報を受け。
成田清吾は出勤して、早々に特殊警ら車両のステアリングを握る羽目となった。
サイレンを鳴らし苛立たしげに前方の車を追い抜いてゆく清吾。
チラ…チラ…と見る助手席には。
清吾よりも不機嫌な顔した東恵理奈が座っていた。
小さな輪郭。
然程、大きくはないが意志の強そうなパッチリとした目。
スッと通った鼻筋。
やや大きめだが口角の上がった可愛いらしい口。
茶色いミディアムショートには波打つ程度のウェーブをかけている。

その容姿は二十一世紀初頭にテレビで活躍していたアイドルによく似ていた。
その名前もだ。
その恵理奈が不機嫌そうな顔で…。
手術を終えたばかりの左腕を擦ってる。
そして清吾はやや緊張していた。
隣に座る、二十七歳の自分より五つくらい若い後輩が可愛いからではなかった。
確かに緊張の原因は恵理奈にあるが…。
この恵理奈が可愛いのはその容姿と名前だけである事を清吾は知っていた。
そして、その捜査方法が特殊捜査班随一の荒っぽさである事も…。
かつて…こんな事があった。

身体中にプラスチック爆弾を巻き付けた通り魔が数名を死傷させた。
そして客を人質に喫茶店を占拠した。
犯人の要求はただ一つ。
散弾銃と百発の銃弾だった。
即座に射殺命令が出たが…。
唯一のヒットポイントであった胸に。
犯人は人質の乳幼児を抱いていた。
泣く気配のない乳幼児であったが…。
その生死は不明であった。
犯人射殺を躊躇する狙撃班。
そんな中、挑発する様に店の外に出てくる犯人。
その犯人の心臓を乳幼児の頭ごと撃ち抜いたのが恵理奈であった。
清吾はその様子を傍で見ていたのだ。

その時の惠理奈の冷めた瞳。
背筋に言い知れぬ恐怖を禁じ得ない眼差しであった。
そして検死。
結果…乳幼児は被弾する以前に既に死亡していた事実が判明した。
その事実を告げられた際の惠理奈の瞳も。
だからなんだ…とでも言いたげであった。
そして清吾は確信した。
あの時、乳幼児が泣き叫んでいても。
惠理奈は何の躊躇いもなく発砲してあろう事を…。

ステアリングを握るブルッと背筋を震わせた。
惠理奈については、まだ他にも多々あった。
それらの総てが清吾に極度の緊張をもたらしているのであった。

その恵理奈が不機嫌な顔のまま…。
前や後ろに比べると一際長いサイドの髪に右の指先を絡め。
左手でジャケットの内ポケットから昔ながらの『わかば』のパッケージを取り出した。
生まれてから一度も昔の煙草を吸った事の清吾。
露骨に顔をしかめるが…。
恵理奈は一向に構う様子もなく。
包みの中から一本。
唇を使って器用にくわえ出した。
ちなみに今では一包み千円。
一日一箱でも…。
一ヶ月近くもつニコチン入りの電子タバコより遥かに高い買い物であった。
そんな高価な一本可愛らしい唇にくわえた恵理奈。

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