闇の牙―牝狼― 26
その背後で美央は…冷たい狂気と燃え上がる様な劣情を湛えた微笑みを浮かべていた。
廃墟の中。
微かに差し込む陽の光の中。
両膝を抱える様に身体を丸めて座る全裸の冴子。
昨夜の様に込み上げる殺戮の黒い衝動に耐えていたのではなかった。
人である時と人外である時の狭間で葛藤を繰り広げているだけであった。
人外と過ごす同じくらい時間を人として過ごしてきた冴子。
自分の住む世界ではないと判り切っていても。
どうしてもこの世界と係わりを断つ事が出来なかった。
他人を避ける様にしながらも…。
アルバイトを転々としていたのは、そんなところからであった。
次の瞬間…スッと顔を上げる冴子。
その瞳は何かを吹っ切った様であった。
警察病院の一室。
美紀の異変を目の当たりにした恵理奈。
無表情で身体の向きを変えると美央と向き合った。
美央は妖しくも挑発的な瞳に。
冷たい笑みを湛えて恵理奈を見つめ返している。
スッと伸び出た恵理奈の左手。
ガシッと美央の喉元を掴んだ。
「ひぃ!ぐっ!」
半ば期待していた事とは言え。
恵理奈の強烈な左手の圧力に。
目を見開き、喉を詰まらせる美央。
その左手から逃れ様と眼鏡をずらして足掻いた。
しかしチンピラの顎を砕くまで恵理奈の左手。
しっかりと押さえ込みピクリとも動かない。
少しづつ意識が遠退いてゆく美央。
しかし、この期に及んでも美央の股ぐらの秘裂は…。
熱い汁を今まで以上に垂れ流している。
「三日で直せ…でなきゃ殺す」
その美央に投げ掛けられる恵理奈の言葉。
美紀の具合でも尋ねるか様な極普通の響きであった。
その言葉と同様な呆気なさで左手を開く恵理奈。
一気に流れ込む空気。
ヒリヒリと熱く痛む喉。
ゲホゲホと咳込みながら、その場にへたり込む美央。
その尻の下には…。
みるみる熱い溜まりが広がってゆく。
「はぁ…はぁ…はぁ」
虚ろな眼差しで荒い息を吐き続ける美央。
その美央…苦しみの為にへたり込んだのではなかった。
そして無言のまま踵を返す恵理奈。
「んあっ!あああ…あ…」
そんな二人のやり取り。
一切、目に入らないといった感じで。
呻き声を上げながら美紀は自分の股ぐらを擦り続けていた。
京成百貨店。
廃墟になる事を逃れている数少ないショッピングセンターの一つであった。
その地下。
ショットガンを携帯した警備員が出入口を堅めている。
そして、その先にはトラックヤード。
そこにも数名の警備員が見て取れる。
近年、増加している暴徒による物品強奪への備えであった。
その物々しい警備の中…青いツナギを着て、青いキャップを被った数名の男女が立ち働いていた。
彼らは搬出入物の整理や屋内での運搬。
フロア内の清掃等を行う裏方の従業員であり。
その大半はアルバイトによって構成されていた。