闇の牙―牝狼― 21
その木製を模した強化扉を抜けると。
黒だった。
天井…壁…床。
総てが黒の通路が薄暗いオレンジ色の灯りに照らし出されている。
その通路の突き当たりに更に扉。
遮音扉だ。
その遮音扉を過ぎると。
喧騒と原色の光が溢れ出てくる。
そこにあるフロアも黒を基調してた。
天井からは色とりどりのカクテル光線。
その光りに照らしだされたのは。
黒の中に並ぶ赤いソファ。
白いテーブルと付属品の様な身なりのいい男達。
そして原色のイブニングドレスに身を包んだ多く女性。
彼女らの人種は様々だった。
彼女達が上げる様々なイントネーションの嬌声。
男達の上げる笑い声。
訳の判らない音楽。
それらが喧騒の正体であった。
そして、その喧騒の中心には螺旋階段。
その螺旋階段を昇ると。
入り口と同様の扉。
VIPルームと言う名ではあるが。
その実は新宿イチ狂暴なオカマのプライベートルームであった。
その中で…。
赤いビロードのソファに深々と座っている金原。
脚を組んだイブニングドレスのスリットからは毛深い脛が覗いている。
その金原の正面には。
ひとりの男が座っていた。
その男の容姿…。
黒くナチュラルウェーブの肩まで髪。
適度の太さで斜めに切れ上がった眉。
くっきりとした瞳。
引き締まったフェイスラインに彫りの深い美男子だった。
年齢に至っては不詳な感があるが…。
この男の名。
寺坂武則、芸能プロダクション『テラ企画』社長であった。
その『テラ企画』…多くの各種メディアで活躍する多くのタレントが所属する中堅どころの芸能プロダクションであった。
だが『テラ企画』、ショービジネス以外にも有能なタレントを抱える芸能プロダクションであった。
「本日はどういった…御用向きで?マダム」
寺坂がその容姿に見合った声で小さく笑みを浮かべる。
「実は社長にたってのお願いがあるのよ」
太い眉毛の下のギョロギョロした目に愛想笑いを浮かべ。
野太い声でシナを作る金原。
「マダムの頼みとあれば…」
寺坂がその長い睫毛を伏せながら。
ピンクのドン・ペリニョンがナミナミと注がれたグラスを手にする。
「嬉しいわぁ」
金原も自分の前のグラスに手を伸ばす。
「消して貰っちゃいたいのが居るんだけど」
そして金原がグラスを目の高さに掲げた。
「かしこまりました」
寺坂も自分の目の高さにグラスを掲げると。
その精悍な顔に薄い笑いを浮かべた。
一言目にいつもこれであった。
決して最初に“誰を?”とは聞かない。
こんなところが金原が寺坂に絶対の信頼を置く理由のひとつであった。
「特殊捜査班のじゃじゃ馬…消してくれる」
答えは判りきっていると感じの金原。
だが…。
寺坂は黙ってグラスを置くと頭をガシガシと掻き始めた。
「おめぇ…」
その様子に金原の声のトーンが変わる。
「勘違いいないで下さいね…マダム」
寺坂が愛嬌の籠った瞳で…。