闇の牙―牝狼― 17
今では内側を派手に彩っていた内装も。
見る影もなく崩れ。
無機質なコンクリートの腸を剥き出しにしている。
闇に包まれた街に向けて開かれた窓枠にも。
既にガラスはなく。
冷たく鳴く様な風を。
街より深い闇の中へコゥコゥと流し込んでいた。
その闇の中…。
独りの女がうずくまっていた。
小刻みに震える己が身体を抱き締める様に。
闇の中に白い裸体を浮かび上がらせる…その姿。
冴子であった。
「うぅぅぅ…」
唸る様な声を漏らし。
震え続ける冴子。
寒さや恐怖の為ではなかった。
内側から込み上げる。
殺戮の熱い衝動に…。
その身を奮わせているのであった。
以前は月の満ち欠けに。
大きく左右されていた殺戮の衝動。
それがこの街に来てからはのべつまくなし。
抑えが効かなくなっていた。
そして闇の中。
ユラユラと幽鬼の様に立ち上がる冴子。
グルルルル――。
形の良い小さな口から。
獰猛な唸りが漏れる。
その黒く大きな瞳は。
瞬く間に金色の輝きに包まれだしていた。
警察病院。
オレンジ色の微かな灯りの中で眠る美紀。
恵理奈の荒療治のお陰か。
正常に戻りつつあったが…。
事件の時の記憶。
その記憶がポッカリと抜け落ちていた。
その美紀。
今は病室のベットで静かに眠っていた。
病室の扉がスゥゥと開き。
蛇原美央が静かに入ってきた。
白衣に身を包んだ細身の女医。
冷たい眼差しで美紀の寝顔を覗き込んだ。
美央は美紀に嫉妬の冷たい炎を燃やしていた。
恵理奈に唇を奪われたからではない。
恵理奈に何度も殴られていたからだ。
顔色ひとつ変えずに美紀の頬を叩き続けた恵理奈。
その残酷なまでの神々しさ。
美紀の頬を張る音を聴きながら。
身震いする程の興奮に包まれた美央。
黒いガーターベルトと黒い絹のストッキング。
スカートの中で剥き出されている内股。
その内股に垂れ落ちるくらい。
美央はショーツのクロッチを濡らしていた。
その恵理奈が帰った後。
美央は独りきりの診察室の中、自慰に耽り。
何度も何度も登りつめたが…。
美央の欲望の黒い炎は消える事はなかった。
昼間とは打って変わって穏やかに眠る美紀。
その美紀を見つめながら。
冷たい表情のまま美央は自分の白衣に手をかけた。
恵理奈のマンション。
その恵理奈はシャワーを浴び終えて…。
その華奢な身体を。
白いベビィドールに包み。
ベットの上にあぐらをかいて座っていた。
そのシャワー後の茶色い髪は。
タオルで拭いただけなのでウェーブをより強め。
不自然にまでに長いサイドの髪を事さら強調していた。
だが…。
ベットの上のその姿は。
思春期の少年ならそれだけで射精しそうな可愛いらしさであった。
更には恵理奈。
その格好で枕元にあった本に手を伸ばした。
真剣な眼差しで見つめる恵理奈。
見つめる先は…淡い恋愛模様を描いた少女漫画であった。
そしてテーブルの上には缶入りのイチゴ牛乳。