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闇の牙―牝狼―
官能リレー小説 - SF

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闇の牙―牝狼― 14

流れ者のイビツに開いた口の中。
その口の中に裂けた歯茎から流れ出た血が溜まり始める。
「ゴッ…ゴフッ…」
その痛み、苦しみは流石に我慢できる物ではないらしい。
ギュッと瞑った目尻から涙を溢れさせ喉を鳴らす流れ者。
「高城公園で殺られたチンピラ…誰に殺られた?」
さっきと変わらずに静かな声で金原に言い放つ恵理奈。
だが左手には更に力を込めている。
「こっちが聞きてぇよ!」
獰猛な目で恵理奈を見つめ返す金原。
次の瞬間。
更なる嫌な音を立てて…流れ者の顎の骨が。
恵理奈の左手の中で砕けた。


その音を聞いた清吾は痛そうに顔をしかめる。
が…依然として顔色を変える事もない恵理奈。
自分の左手を離し、その手を自分の顔の前に翳す。
やっと解放された流れ者のチンピラは…。
「うがぁぁぁ!うげぇぇ!」
その場に踞り言葉にならない呻きをあげながら。
血溜まりや歯の欠片、口腔に突き出てきた骨の欠片を吐き出している。
そんな姿は顧みる事もなく。
恵理奈は自分の左手の性能を確認する様に繁々と眺めている。
金原や他の構成員も流れ者のチンピラを助け起こす事もなく。
獰猛な視線を二人の刑事に向けている。


「やる気か!てめらぁ」
その視線にも臆す事のない清吾。
半ば自棄になっているのも事実であったが。
恵理奈は何も言わずに目の前の凶悪な群れに背を向けた。
「あれ…」
扉に向かって踏みだす恵理奈、拍子抜けする清吾。
そして扉のノブに手をかける恵理奈。
別に獰猛な視線に臆した訳ではない。
此処にいる事が時間の無駄と捉えたに過ぎなかった。
皆殺しにするのも面倒だとも。
それを本能的に悟った金龍会の凶獣たち。
恵理奈を引き留める事はおろか。
挑発する事もしない。
凶獣とて自分の命は大事なようであった。


二人の刑事が出て行くの見届けた金原。
ほっとした様に大きく息をついた。
実際…金原の背中は嫌な汗でビショリと濡れていた。
その金原。
床でのたうつ流れ者のチンピラに視線を流す。
そして…。
「こぉのダホッ!!」
流れ者の顔の側面を蹴り上げる。
「オゴォォォ!」
コメカミにハイヒールを履いた爪先がめり込み仰向けに倒れる流れ者。
脳に損傷でも受けたのか、血の泡を吹き。
白目を剥いてピクピクと痙攣している。

「寺坂を呼んでこい!」
新しい緊張に包まれた事務所に金原の怒号が響き渡っていた。


憎悪と殺意に満ちた視線を背中に。
恵理奈と清吾が金龍ビルを出た。
ちょうどその時。
清吾の懐の中で携帯がブルッと震える。
その瞬間、ビクッと自身の身体も震わす清吾。
今の今まで居た場所を考えればしょうがない生体反応であった。
むしろ声を出さないだけマシとも言える。
だが…恵理奈。
そんな清吾にはお構いなしに例のポーズで弾む様に。
可愛さを振り撒く様な歩き方で先に進んでゆく。
清吾は僅かなため息と供にその小さな背中を見つめながら。
携帯電話を己の耳にあてた。

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