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井戸の怪異
官能リレー小説 - ファンタジー系

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井戸の怪異 7

もどかしいのはデビーもだった。いくら黒い魔物を倒しても消えた装備は元に戻らず、ほぼ全裸なのだ。
どうやら攻撃を空振りして消えた装備はそれっきりで復元はしないらしい。
これは怪女の液体の中だけでのみ起こる現象だろう。攻撃を空振りしただけで少しずつ欠落していく装備なんて使い物にならない。

ペトルしか見ている者が居ないとはいえ、裸で戦うというのは気分は良くない。しかも、唯一見ていたペトルはなんだか怪しい目をしていた。
「まぁ、静かになったようだし……割り切っていくか」
漂う化け物どもを切り裂いていくと、少しずつ剣の振り方が理解できていく。
重さと勢いに逆らわず、理想の剣閃に沿うように刃先を滑らせていくのだ。
ふわふわと流れていく黒笠をスッパリと断ち、甲殻に守られた海老っぽいのに真っ直ぐに刃を通す。
自らの制空圏の外の相手には、凍結の呪力をもって刃を伸ばしたり、凍らせて砕いたりしていった。

「うぅ〜ぃ、お疲れぇ〜っ! そろそろ風邪引いちまうし、火酒でも飲んで温まっちまえばぁどうよぉ〜っ?! ひはっはぁあぁぁんっ!!」
そんな声が聞こえたら水球から吐き出され、黒い装備が体を覆っていた。
少し痛むのを我慢しつつ井戸に背を預けると、度数の高い酒の瓶を呷った。
喉が焼けるような熱さの後、胃の中からカッカしそうな熱が冷えた全身に広がっていく。
ふと目を空へと向ければ、何時の間にやらペトルたちがグルグルの渦に飲まれて遊んでいた。
裸の男達を巻き込む渦が妙な動きを見せる。それと同時にデビーの装備がざわめく。
「なんだ?なんか股間の部分に違和感が…」

ペトル達に絡み付く黒い魔物とこの装備は根底は同一の物だったといってもいい、ちょっとした鍛練により高められたデビーの装備とデビーの肉体を目に焼き付けたペトルに装着された黒い塊が反応を見せるのも当然だった。
水の中で回っていたペトル達は、渦ごとずるりと引きずり出された。
異常事態を察してからの彼らの行動は早かった。
上から降ってくるチンピラたちを避けると、男は背を向けて一目散に逃げ出した。
一方の怪女も、身勝手に動き出した黒笠たちに苛立ちながら指を向けると、硬く収束した水の槍が次々と奴らを地面に磔にする。
「おいぉいおぃ、おおぉぉぉいっ!! イけないなぁ……いけないよなあぁっ?! 誰が勝手にヒトの玩具に手ぇ出して、イィって言ったよ! えぇっ、おいぃ!?!」
囚われているペトルらに構うことなく、彼女は化け物たちに水弾を浴びせていった。
バシュバシュッと水飛沫が上がり、当たった辺りがボコボコに腫れあがっていく。

自宅の納屋に帰ったデビーは、息を整えて毛布に潜り込む。
慌しかった一日を振り返りつつ、明日からの冒険を夢見て眠りについた。
翌朝。身支度を整えて装備を確認すると、財布を懐に冷たい空気の中に踏み出した。
いまだに夢でも見ていたのではと疑問を思い浮かべながら裏通りの井戸を覗くと、酔っ払っていたチンピラどもが影も形も無く居なくなっている。
「んぅ〜っ、アタイに逢いたくなっちまったかい?! えぇっ、デビーちゃんよおぉぉっ!!」
広場の隅っこに山積みになったゴミに視線を移した時、井戸の淵に腕をついた怪女がこちらに声をかけてきた。
「あの餌どもも味がしなくなった上に、黒いのに利用されちまったからなぁあぁぁっ! ひゃははっ。掃除ついでに放っぽいたら、どっかに逃げちまった! ばひゃひゃっひゃあぁぁっ!?」
昨日から妙に構ってくるペトルが怖いが、せっかく戦えるようになったかもしれないのだ。
デビーは怪女に頭を下がると、さっさと朝食を食べに酒場へと向かった。

「はぁ〜い、いらっしゃいませぇっ! 空いてる席に……って、デビーさんじゃないッスか。格好良い装備ッスけど、どこで拾ってきたんスか?」

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