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淫獄
官能リレー小説 - ファンタジー系

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淫獄 3

真希は、まさか自分がひとめ惚れするなんて思ってなかった。
店長の事務室から女装した姿で、少し頬を赤らめて出てきたところで、廊下ですれちがった。
胸が高鳴った。
自分の暮らすアパートの部屋にいても退屈なので、同伴客のいない日に普段より早めに出勤した。
店が開店するのは午後七時。
夕方五時半ごろ、店長は店の事務室に彼を連れ込んでお楽しみだったとすぐにわかった。
照れくさそうに顔を伏せてそそくさと足早に店の裏口から出て行く彼の後ろ姿を、真希は立ち止まり見つめて、急いで自分も店を出た。
店長に見つかるとめんどくさいのが半分。
残り半分は衝動的だった。
「ねぇ、待ってよ!」
彼が裏路地で声をかけられて立ち止まる。
真希も立ち止まる。
呼び止めたけれど、そのあと、どうすればいいか考えてなかったからだ。
二人の間の距離、およそ二メートル以上三メートル以内。真希にはとても長い時間に感じた。
その間を野良猫が脇のビルの隙間から出てきて、二人の中間のあたりですわりこんだ。
三毛猫は毛づくろいを始めた。
先に動いたのは男の娘だった。
真希は動けずにいた。
男の娘は真希の前まで来なかった。
三毛猫の前でしゃがみこむと「かわいいね」と猫に話しかけた。
すぐにさわったり、抱き上げようとはしない。
ああ、この人はそういう人なんだ。
真希はそんなことを思いながら、三毛猫と男の娘にゆっくりと歩き出した。
男の娘と三毛猫が見上げて、三毛猫か真希の脚に体をなすりつけてきた。
「君の猫なの?」
口調と声が思いのほか優しい。
「表通りの居酒屋さんに餌をもらいによく来る猫。あたしの猫じゃない」
「名前は?」
「知らないよ。野良猫でしょ?」
「ちがうよ、君の名前だよ」
男の娘は真希と同じぐらいの背丈で、でも顔立ちはどう見ても女の子しか見えなかった。
「君、って呼ばれるのは好きじゃないの、マキっていう名前だよ」
「そう。僕の名前も知りたい?」
真希は首を横にふった。
名前なんかどうでもいい。
この人がほしい。
男の娘の暮らす部屋。
服と本とベット。
生活感がほとんどないキッチン。
始めて男の娘と会ってから、三ヶ月ほど顔を合わさないで真希はすごした。
LINEのIDを交換しようとしたら、彼はLINEを使っていないと言うので、メールアドレスと電話番号を交換した。
自分から会いたいと言い出せなかった。

マキさん、うちに遊びに来る?
服しかないけど。

行く、とだけ返信したが、真希は自分のふとんの上でスマホを抱きかかえて、ごろごろと転がり満面の笑みを浮かべていた。

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