淫魔剣トリス 16
死ぬべき人間の死を確認すると同時に、全身から力が抜ける。
どうやらこっちもタイムアップのようだ。
トリス、ここまでよく保たせてくれた。マジ、ありがとうな。
何やら脳内で、トリスが何か言っているようだがよく聞こえない。
俺は最後に『ごめんな』とだけつぶやいて、その意識を深い闇の底に沈めていくのだった。
あ、誤解のないようにネタバレしとくが。
確かにこのとき俺は意識を失ったが、命を失うことはない。
トリスでも助けられなかった命をつなぎとめてくれた仲間がいたからだ。
・・・まー、それが原因で、いろいろとうるさいことになるのだが。
とりあえず今は休ませてほしい。さすがに無茶しすぎて、話をするどころではないくらいの大ケガなんで、な。
(ご主人様っ?!ローランさまぁぁ〜っっ!!だ、ダメぇっ!今死んじゃだめですっっ!死なないでぇっ!お願いだからぁ〜っっ!!!)
トリスがパニックを起こして叫ぶが次第にその声すら俺の耳には遠く聞こえるようになっていき、そして意識は真っ暗な闇に飲まれていった。
迫り来る触手の化け物は使用者を倒しても収まる気配がない、その蠢く粘液の音はますます大きく響いていく。
(すまないなっ…トリスっ…こんな化け物の側に置き去りだなんて…)
無念さのみを残し、ローランが気絶し、トリスが声にならない悲鳴をあげようとした後に、辺りにぱちぃんっ!と空気を裂くような音が響いた。
「だ、大丈夫かいローラン君っ!?トリスちゃんも、今すぐに治すからねっ!」
音源の正体はリリィだった、何をしたのか事態の飲み込めない、剣状態のトリスをよそに、リリィはローランを抱えて、そしてゆっくりとその顔をローランに近づけていく。
「使い魔を使って地面に送還魔術の魔方陣を書いてたんだ…逆に召喚したモンスターは全部強制送還出来たけど、仕方ない、ほら、口を開けて」
(な、何をするんですか?リリィさんっ!やっ、嫌ぁ〜っっ!!)
トリスが声をあげるのを無視してリリィはローランに口づけをした、勿論ただのキスではない、自らの唾液すら触媒にした速効性の回復薬を作り出して飲ませる、それはなかなか高度な技術だ。
とくん、とくんとローランの喉が鳴り、気づけばローランの肉体は傷も回復していた…口の回りがどこか酒臭いのはまあ仕方ないだろう。
「ほら、起きてよローラン君!傷は浅いから」
それからぺちぺちと頬を叩かれて俺は目を覚ました。
傷はふさがり失血も回復し…そのままふう、とため息をついて起き上がると、俺を抱き締めるようにトリスが抱きついてきた。
「ふえぇ〜っっ!ご主人様ぁぁ〜っっ?!!」
「な、泣くなよトリスっ…鼻水と涙で顔が台無しになってるぞ!?」
顔をぐちゃぐちゃにして泣き腫らすトリスの髪を優しくなで回しながらも、リリィに助けられたことに例を言うために顔を向けて、俺は頭を下げた。
「ありがとうリリィ…しかし、ゾーラさんは…もう助からないのか?」
「いや、方法はない訳じゃないけど…しかし、こいつは多分生きた人間じゃないね?ほら、みてご覧…」
ゾーラで作られた剣を手に取ったリリィが死体から剣を引き抜き蹴飛ばすと、屍体はしゅうしゅうと音をたてていつの間にか白骨と化していた。
「死霊の魂を召喚して土とかで受肉させたんだろうね?多分蛇の手の関係者と思い込ませて…」
「…何でかはわからないけど厄介な敵みたいだな…しかし、治すってどうやって?」
「この剣は言うならば所有者の決まっていない擬似的な魔剣みたいなものでね…魔剣を人工的に作り出す研究も蛇の手は行っていたのさ?そもそも人宝石はこうやって楽しむこともできるんだ…」
剣の刃先をリリィが軽くなで回すと、そのまま剣は等身大のゾーラ…すっぽんぽんの姿になり、鍛えられたが女らしさを失わないその肉体を俺の眼前に晒すことになっていた。
「鑑賞も出来れば収納のために宝石のなかに人が入っているような姿にもできるし…意識を書き換えて思うままに身体を味わうことも可能だけど…ただ元に戻すだけなら魔力…たっぷりと濃い精液を注ぎ込めば、元に戻るだろうね…さて、どうする?ローラン君?なんだか他にも石化した子達はいるみたいだけど…」
「な、ま…マジでか?」