淫魔剣トリス 15
「か、はっ!?」
(ろ、ローラン様っ!?)
吐血する俺に、トリスの焦る声が聞こえる。そして・・・。
「ふふふっ、やっとスキを見せてくれましたねぇ・・・?
こっちは武器を作ることはできても、使うほうはずぶの素人ですからね。
こうでもしないと、勝ち目ありませんから・・・♪」
見覚えのある黒いフードの男が、背後で俺をあざ笑っていた。
やられた。完全にやられてしまった。
憤りとともに激しい無念が湧き上がる。
そもそもフードの中身が土人形だった時点で、何かおかしいと気づけよ、俺っ!
仮にフードの中身が人間でないとしても、土人形で全身を隠す必要がどこにある?
それに俺が倒した触手の塊は、宝石に変えられたゾーラを持っていなかったじゃないか!
いや、それ以前に!コイツは最初から言ってたじゃないか!
『自分は蛇の手所属の錬金術師だ』と!前衛職でもない人間が、真っ向から堂々と立ち向かってくるわけないだろ!?
慢心ではなく、我が身の未熟ゆえによけいに腹が立つ。
対する黒フードは勝利を確信したのか、手にした剣から手を離して倒れ込む俺を悠然と見下ろしていた。
「くくくっ・・・いかがです?即席で作った剣ですが・・・なかなかいい切れ味でしょう?」
「何・・・だ、とっ?」
「言ったでしょう?私は蛇の手所属の錬金術師。武器の作成などお手の物なんですよ」
そう語る黒フードに、俺はそんなわけあるかと全力で否定した。
錬金術師の本業は武器の作成ではない。武器や道具のもととなる素材の練成だ。
もちろん腕さえあれば、即席で武器が作れないこともないが・・・それはあくまでナマクラレベル。
こんな人体を豆腐のように貫くような名剣を瞬時に作ることは不可能のはずだ。
あらかじめ用意でもしていない、かぎ・・・り?
(―――ッ!?)
そこで俺はふと『ある方法』を思いつく。
それは人の道から外れた、まさに外道の手段。
「お、まえっ・・・!まさ、かっ・・・!?」
「・・・ほう?そんな死に体でわかったんですか?大したものですねぇ。
ええ、そうです。今、あなたを刺し貫いている剣は、さっき宝石に変えた、あなたのお仲間を材料に作ったんですよ」
俺の最悪の想定を肯定をされ、言いようのない怒りが湧き上がる。
この外道は、何のためらいもなく禁忌とされる行為をやってのけたのだ。
同じ人間として、これほど許しがたいことがあるだろうか?
だが致命的な一撃を受けた俺の身体は、どれだけ動けと命令しても動かない。
死なないように意識を保つので精いっぱいだ。
だからこそ、この外道は言う。俺にこの上ない敗北感にのたうつさまを楽しむためだけに。
「まあ、そこでせいぜい見ていなさい。残りのお仲間も適当な武器に作り変えられていく様を。
出来上がったら、それであなたにとどめを刺してあげますよ!
あーっはっはっはっはっ・・・!」
ミシィ・・・っ。
その言葉に、俺は血が出るほど強くかみしめる。
黒フードはこの瞬間、倒すべき敵ではなくなった。
1分1秒でも早く、この世から抹消すべき何かとなったのだ。
とめどなくあふれる怒りを抑えることもなく、俺は心でトリスに語りかける。
黒フードをこの世から消し去るために。
(ト・・・リスっ。聞こえるか、トリスっ!
今からあの外道をブッ殺す。おまえは俺が死なないよう、何とか命をつなぎとめておいてくれっ!)
(だ・・・ダメです、ローランさまっ!今の時点で、私が何とかしてる状態なんですよ!?
武器としてお役にたつ余裕なんてありません!
無理して動いたりしたら、ホントに死んじゃいますよ!?)
(あー、それなら安心しろ。代わりの武器ならちょうどいいのがあるっ!)
(いや、ですから無理しないでくださいと・・・『代わりの武器』?)
トリスが首をかしげたスキに会話を打ち切り、代わりの武器に手を伸ばす。
それは俺を刺し貫いている剣となったゾーラ。
(ゾーラ・・・聞こえるか?あんな外道にいいように使われて、無念だったろ?
悔しかっただろ?今、その恨み、晴らさせてやるからなっ・・・!)
俺を背に、悠然と獲物であるモニクたちのもとへ歩く黒フード。
せいぜい油断してろ。それがおまえに残された、死へのカウントダウンだ。
死にかけの身体に鞭打ち、腹部から飛び出るゾーラの刃をつかむ。そして・・・!
「・・・ッ!〜〜〜〜〜〜ッ!!!???」
(やめてっ!?やめてください、ローラン様っ!?死んじゃうっ!?ホントに死んじゃいますからぁッ!?)
武器に変えられたゾーラを、無理やり腹から引っこ抜く!
そして、あとは想像を絶する激痛とトリスの悲鳴を無視し、残された力で黒フードに血まみれの剣を投げつけるだけ。
本来ならばとうに死んでるはずの投げた剣は、材料にされたゾーラの意思もあったのか。
まるでダーツのように静かに、早く飛んでいき。
あっさりと黒フードの脳天を貫いた。
「・・・は?え・・・?」
バカの口からマヌケな声が漏れる。
きっと頭を貫いたものがどこから来たのか、誰が投げたのか。
そして自分がなんでこんなあっさり死ぬのかとか考えでもしてるんだろう。
だがそれに答えが出ることはない。出る前に黒フードは倒れ、死んでしまった。
それでいい。おまえはそうやって納得できないまま、無様に死ね。
おまえはそれだけのことやったのだから。