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アラサー冒険者
官能リレー小説 - ファンタジー系

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アラサー冒険者 41

「クソッ・・・そこをどけッ!!」
叫びざまの、木剣一閃。
ガストの放った剣圧が、一瞬で周囲の剣士たちを吹き飛ばしてしまった。

「う、うう……」
凄まじい剣圧を喰らって地面に叩きつけられた剣士たちは、うめきながら立つことすらかなわぬ。

・・・真空斬り。
剣を抜き放つ瞬間に圧縮された空気ごと、周囲を凪ぎ払う剣技であるが、不安定な木製テーブルの足場上で、かつ木剣の軽さが威力を半減させている。
ガストも余程鍛練を積んだのであろう。悪条件で放ったにもかかわらず、この威力である。

「剣を拾えェッ、アンナァァッ!!」
ガストの技の冴えを目の当たりにしてさえ顔色ひとつ変えずに立つアンナに、ガストは木剣のさきを向けて怒鳴った。
「ここまでされてなお、我が誇りを傷つける冷静沈着ぶり!!・・・許さぬ……許さぬッ!!」

誇り、だと?
おびえてうずくまったメイドの盾となって立つアンナは思う。
私を剣技で越えられぬなどという下らぬ噂など、もう充分吹き飛ばせる実力を得ているではないか。
何が誇りだ。
どんなに剣技を極めようと、近衛騎士団に最年少で抜擢されようと、女の身では筆頭騎士の候補にすら挙げられなかったではないか。
この私の誇りはどうしてくれるんだ?
女だと言うだけで、親の決めた相手と結婚させられた私の心はどうしてくれるんだ?

すました顔で立つアンナの内部はその実、長年つもり積もった憤懣が煮えたぎっていたのである。

「エエイッ、ひ、拾え、剣を……剣を拾えッ!!」
表面上は変化を見せぬアンナにしびれを切らし、テーブル上から何度も真空斬りを放ってくるガストの剣風をまともに喰らい続け、アンナの髪は乱れ、ドレスは下着もろともズタズタに裂かれてゆく。
「ぎゃはは・・・見よ者共よ!!・・・なんとたるんだ腕、なんとたるんだわき腹!!・・・かつての姫騎士の可憐な面影など微塵もないわッ!!」
肌もあらわなアンナの姿をあざ笑うガスト。
「ぶよぶよの腹筋ッ、垂れ下がった太ももッ、カストール伯爵令嬢は最早、たるみきった贅肉で出来たブタ人形に成り果て」
狂ったようなガストの笑い声が、突如中断された。

一瞬の出来事であった。

ガストの足元を支えていた丸テーブルが、乗っていたガスト本人ごと、消えた。

祝賀会場に集った群衆は突然の出来事に、目を見開いたまま硬直するしかなかった。

シュウウ・・・。

ただ、先刻と変わらぬ半裸でたたずむアンナの両肩からは、急激な体温の上昇に依るものとおぼしい湯気が立ち昇っていた。

次の瞬間。
グシャリと何かがつぶれる嫌な音とともに降ってきた物があった。

一瞬で中空に放り上げられ、そのまま落下して砕け散った丸テーブル。

そして、脳天から真っ直ぐに固い地面に叩きつけられて動かなくなった、近衛騎士団筆頭のガストである。

自分の人生を、ただひたすら家のために浪費された怒り。
望まぬ結婚をさせられた怒り。
理不尽極まりない逆恨みをぶつけてきたガストに対する怒り。

何よりも、1度として勇気を出して、周囲の期待や要求にNGを、ノーグッドを主張できなかったアンナ自身に対する怒り。

その全てが、彼女の中に眠っていたバーサークのスキルを生まれて初めて発動させたのだった。
瞬間的に爆発したパワーが突き動かした右の手刀が、木剣を両手で振るったガストのそれに数倍する真空斬りを発生させたのである。

(長年の私の不満が、これで晴れるわけではないのだ……)
ようやく事の顛末を理解できた人々が喝采するなか、肩で息をするアンナの心は虚ろだった。

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