アラサー冒険者 39
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同時刻。
空腹に狂ったドスミノスの出現によって、ミノタウロスのほこら全体が崩壊し始めていた。
ドスッ。
グサッ。
「ヴォアッ!?」
倒れていた頭のすぐそばに数本、巨大な鍾乳石が突き刺さって、失血で気を失っていたギガは目を覚ました。
ランディを閉じ込めていた場所から少し離れた、生き物1匹がようやく寝床にできる小穴が無数に空いた居住区画の手前の通路である。
「ウグ・・・」
起き上がろうとしたギガの顔が苦痛に歪んだ。
傷口に毛皮の切れ端を押し当てていただけだった左腕は、ミノタウロスの自然治癒力のお陰で血こそ止まっているものの、回復には程遠い。
拾ったはずの左手は、逃げるあいだになくしてしまったらしい。
立ち上がろうと両足に力を込めるが、バランスを崩してしりもちを付いてしまった。
こうしているうちにも、壁や天井が不気味に振動を続けている。
(バグーノヤツ ツイニ オメガ ヲ トキハナッタナ?)
天井から降り注ぐ欠片をかぶりながら、ギガは両ヒザを抱えてうずくまった。
(・・・シヌノカ オレ)
崩れゆく住みかを、虚ろな目で見つめた。
思えば彼の一生は、周りに対する憎しみやねたみで満ちていた。
小柄な体躯をからかわれ、疎外され続けてきた。その復讐を企てたつもりが、協力者に裏切られた。
いや、初めから騙されていたのだ。
利用するつもりで利用され、挙げ句は切り捨てられた。
いや、違う。
自分の居場所を勝ち取りたいがために、ゴキブリ野郎を利用したのは自分だ。自分が認められたいがために、長老たちや同世代の実力者をゴキブリに切り捨てさせたのは自分だ。
すべては自分がやってしまったことの報いだった。
この失われた左腕のように。
ギガはすべてをあきらめきって、ヒビが広がりつつある通路の壁に背中をあずける。
そして、彼が目を閉じた時だった。
ちいさなつま先が、うなだれた彼の視界に飛び込んできたのだ。
「コ、コレ・・・」
遠く聞こえるオメガの雄叫びに消え入りそうなささやき。
(!?)
思わず顔をあげたギガの目に飛び込んできたのは、おさないミノタウロスの少女と、その両手に抱えられた彼の左手であった。
「ナ ナンダオマエ 二 ニゲオクレタノカ?」
差し出された自分の左腕を受け取りながら、彼は立ち上がった。
(・・・!?)
不思議なことに、今度は踏ん張って立ち上がることができた。
「自分で立てるなら、お前も手伝え!!」
少女に寄り添うように歩み寄る、新たな人影。
「お前の仲間のメスやガキどもが、この騒ぎで閉じ込められてるんだ!!」
「ヴォッ!?」
さすがのギガも、目を疑わずには居られなかった。
目の前の少女だけではない。
十数名ほどの老人やメス、子供らの一団がこの、目の前に現れた相手に付き従っていたのである。