アラサー冒険者 38
「痛いッ、痛いィィイイッ!!・・・わ、ワシャあ悪くないぞ?・・・かの怪物バグーとやらにそそのかされてしまったのだ!!・・・この地にはびこるウシ族と人狼族を争わせて弱体化させる手立てを整えさせるはずだったのだ!!それなのにあやつは・・・」
バキッ。
ゴキッ。
ドカドカッ。
「や、やりすぎだろマリア・・・あんた、暴力はいけないんじゃなかったのかよ!?」
重いメイスによる連続攻撃を加え始めるマリアをスコルは止めようとする。
「大丈夫です!!これはッ、天罰です!!神のッ、おぼしめしッ、ですッ!!」
ゴキン。
ボキン。
バキバキッ。
「うぎゃアあああッ!!!」
みるみるうちに子爵は全身、コブとアザだらけになった。
(もしかしてこのニンゲン死んじまうんじゃ?)
スコルもさすがにそう思わざるを得なかった。
「う、うう」
小便を漏らしながらうめく子爵に、もはや貴族としての面影はない。
「こんなことなら・・・こんなことならもっと、あの犬姫をもっとメチャメチャに犯しておくん」
グシャッ。
最後まで言い終わらぬうちに、スコルのたくましい足が子爵の股間を踏み潰してしまっていた。
子爵は腫れ上がったまぶたの下で白目をむき、
口から血の混じったアワを吹いて気を失った。
「そんなにしたら死んでしまいますよぉ?……慈愛と豊穣の教義にも反して」
「お、お前が言うなッ!!」
マリアの言葉に、スコルが思わず突っ込みを入れた時だった。
『・・・グモモモモモモモーーーーゥン!!!』
「「!?」」
洞穴全体を揺るがして、何者かの雄叫びが響き渡ったのだ。
ドスッ。
ドスッ。
ドカドカドカドカドカドカッ。
「キャアッ!?」
「ウオッ、こ、これはッ!?」
まるで火山性の地震のような地響きが地面を揺さぶる。
『グモモモモモモモーーーーゥン!!!』
「この声は……この声はまさかッ」
「何してるのスコルッ、天井が崩れ落ちてきそうですよッ!!」
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ。
巨岩を叩きつけたような地響きがおこるたび、天井から垂れ下がった鍾乳石が崩れ落ちてくる。
鍾乳石を蹴散らすように、2階建ての小屋程もある巨大な影が姿をあらわした。
「ど、ドスミノスッ!!」
「危ないって言ってるでしょ!?………もう、こうなったら『駿・足・祈・祷』ッ!!」
マリアが聖印を構えて叫ぶと、彼女の身体が虹色に輝きだす。
スコルの手をつかむと、まるで早馬のような速度で駆け出すのだった。
ふたりが立っていた場所めがけ、無数の鋭い鍾乳石が降り注ぐ。
その破片が転がる地面を、ベッド並みの大きさの足が踏み砕いた。
大木のような脚部が支えるのは、粗削りの岩の彫刻のような巨大な上半身。
通常のウシの体ほどもある頭部には、立派すぎる2本の角。
「こっちですよ、オメガ!!」
崩れ落ちる石のつららをたくみにかわして飛び回るものがあった。
「お前の目指すエサはこの先ですよ?・・・ついてきなさい!!」
『グモモモモモモモーーーーゥン!!!』
蚊のように翔んで先導するバグーを追って、巨大な影が歩き出した。
通常種に数倍する巨体を誇るミノタウロス。
ドスミノス「オメガ」の登場であった。