アラサー冒険者 17
どさくさにスコルの下履きまで、ひといきに下ろしてしまった。
バネ仕掛けのネズミ取りの罠が作動したかのように、スコルの肉棒が勢い良く、その元気な姿をあらわしたのだった。
根本まで体液の垂れたソレに、3熟女の視線が注がれる。
「…ンじゃ、チョッとだけ"お毒見"しまー」
ゴキン。
嬉しそうに宣言仕掛けたアンナの後頭部で、メイスが炸裂した。
「オイシーれすわー・・・」
頭上に数匹の小鳥をピヨピヨ飛び回らせながら、目を回して気を失うアンナであった。
「全く油断もスキもない!!」
石畳を敷き詰めた床に倒れこむアンナを見下ろして、尼僧マリアが金属製のメイスを構えている。
「………神に代わって天罰を執行させていただきましたよ−?・・・毎回言ってますけど、おしゃぶりは攻め役の担当じゃありませんことよ!?」
((もしかしてアンナ死んでるんじゃ・・・?))
と、奇しくも立場がまるで違うシーマとスコルの脳裡に同じ懸念がよぎったのだったが。
((コイツ、なんか怖いから突っ込まんとこー………))
またしても同じ理由でふたりは沈黙を守ったのだった。
「だいたい、こんなにビッキビキになってるんですから、きっとひと舐めしただけで昇天しちゃって、もったいなじゃないですかぁー?」
カラン。
カラカラカラン。
スコルのそこからは目を離さずに、マリアはメイスを背後に放り出した。
「ドッコイショ、っと」
とつぶやきながら、ひざまずくスコルを見上げるように寝そべったのだった。
「さあ、迷える子羊よ、ってゆーかおおかみサン、こちらへいらっしゃい」
金色のまつげをまばたきさせながら、人差し指1本でスコルを招く。
「ホイよ」
げしっ。
「うわわっ!?」
背中をシーマに蹴飛ばされ、バランスを失ったスコルは、あお向けのマリアの上に倒れこんでしまった。
「イテテ………クソッ、なにしやがんだ!!」
とっさに両手をついて、ひとまわり体の小さいマリアを下敷きにせずに済んだスコルであったが、自分に蹴りを入れたシーマを怒鳴らずにいられなかった。
背後を振り返ったスコルを、しかしマリアの両手が再び下を向かせてしまう。
「あなたが罪を告白するのはこっちですよ?・・・さあ、まずは手始めに愛の口づけを」
胸の前の聖印に両手を添え、目を閉じるマリア。
「なんでそうなるんだーーー!?」
と、叫びながら立ち上がりかけるスコルであったが、マリアは説教臭く語るのをやめない。
「どうしても神を否定なさるなら仕方ありませんね〜・・・ですが、暴力で無理強いするのも教義に反しますから、非暴力と非武装の神のしもべを代表して・・・」
(おいおい、非武装も非暴力もなにもアンタ、たった今、しかも仲間に対して、背後から鈍器で殴打を)
スコルの心の突っ込みは、しかし(以下略)
「・・・主よ、襲い来たる者共に慈悲の幻影をッ………エイッ!!」
マリアの叫びと共に、聖印がまばゆく光った!!
(あ……?)
スコルの周囲に立ち込める湯気が急速に形を変えて、彼の体の下に集まってくる。
(あれ?)
それは、スコルにとって最も重要な意味を持つ者の姿を造り上げていった。
(ね……)
「…ねーちゃん!?」
かすかな霧に包まれてはいたものの、見間違いようのないそれは、ねーちゃんことランディそのひとであった。
「………いぬっころは まぼろしに つつまれた」
さも面倒くさそうな、いかにもわざとらしい棒読みで、シーマがつぶやく。
・・・幻惑祈祷。
教義の建前上は非暴力をうたう僧侶たちが、無用な戦闘を避けるべく多用する。魔法使いのように呪文を必要としない代わりに、祈ることで発動する幻惑術の一種である。
なお、この術を戦闘以外の局面で悪用することは、一般倫理的にも教義的にも明らかに犯罪であるが・・・
「ね、ねーちゃん!!」
マリアをランディだと思い込んで抱きしめているスコルには、充分に効果があったようだ。
「……うっわ、コイツ寄りによってシスコンかよ」
シーマが思わずドン引きするのにも効果ありだったが。
激しくほおずりされながら、マリアもまんざらではないようだ。
「きゃーん、スコルったらダメよーん」
いかんせん、演技はダイコンだったが。
「スコルったら、ちょっと?・・・ちょっと待って!!」
まるっきり犬のように首筋を舐め始めた彼の鼻面を押し戻しながら、
「気持ちは判ったから・・・ね?」
人差し指でスコルの鼻先をつついてから、マリアは再び両目を閉じて、唇をすぼめたのだった。
それは幻惑祈祷の効果によって、スコルにとっては憧れの女性の"キス待ち顔"となって視界に飛び込んでくる。