アラサー冒険者 12
「何がそんなに可笑しいんでしょうか、妻よ?………何があなたをそこまで強くしているのか知りませんが、無駄なことですよ?」
興奮気味の自分語りを終えて落ち着いたのか、バグーは再び静かにささやきかける。
「さあ、夫であるこのわたしに、お前の秘めやかな最後の場所を、隠さずさらけ出すのです」
アゴをつかんでいた手が離れ、さらにもう片方の腕と共に、彼女の身に最後に残された1枚へと迫ってくるのだった。
流石のランディもわずかに頬をひきつらせるが、笑みは辛うじて維持できている。
(……くっ)
両わきのヒモ部分を結ぶ仕組みのビキニの右側が、音もなくほどかれた。
熱を帯びたオスどもの視線が、この洞穴に満ちた冷気と共にソコに殺到する。
・・・ふぉおおおおおおお!!
・・・ヴオオッ、ヴォォォ!!
戦いに勝利したかのような歓喜が、ミノタウロスどもの咆哮となってこだまする。
彼らの視線の中心で、半ば脱げかけた毛皮のビキニが、しおれかけた花びらのように垂れ下がる。隠されていた雌しべがついに、この場にいる全てのケダモノたちに目撃されてしまった瞬間であった。
「これはこれは………まるで銀細工のユリの華のようではありませんか」
虫の美的センスなど想像を絶するが、こればかりはバグーの言う通りという他はないだろう。
吹けば飛んでいってしまいそうなほど細く縮れた、白金色の恥毛。
ぷっくりと肉の盛り上がった、相手の欲望を心地良く受け止めてくれそうな恥丘。
垂れ下がる黒い毛皮の下履きとのあいだに、絹糸のように伸びた粘液でつながった、誰一人として立ち入ることを許していない、蜜を湛えたひとすじの恥裂。
あふれた蜜とオスどもの視線をたっぷりと浴びながら、ひくひくと収縮する恥肛。
20年以上を共に過ごしたスコルさえ、ここまではっきりと彼女自身を目の当たりにはしていないであろう。
恥ずかしい。
死んでしまいたいくらい。
しかしそれは、まんまと私を犯してやったと相手が歓喜した瞬間に、地獄を味あわせてからだ……
悲壮な決意が、獲物を待つ復讐者としての彼女を保っているのである。
「ふふふ……いい濡れ具合じゃあないですか?」
のんびりした、しかし限りなく悪意に満ちた言葉を吐きながら、獲物が近づいてくる。
「………こんなにいやらしい花嫁を迎えられるなんて、わたしは何と幸せなのだろう!!・・・幸せすぎて、怖くなってきます」
来い、あともう少し前に。
無防備なままでこの私を貫くがいい。
自分の純潔と引き換えに、お前が例の怪しげな巻物を使えない瞬間を作り出せるなら安い買い物だ。
そうしたら一瞬で獣化して、両脚でアリジゴクのようにがっちりとお前をとらえたまま、その喉元に。
「………でも、初夜に結ばれてこその夫婦円満ですからねぇ………」
牙を。
立ててやる。
「フフフ・・・」
あと、あと一歩。
「そーうだ、いいこと思い付いちゃいましたよ!!」
あと半歩までその茶色い身体が迫ったとき、バグーは突然、手を打ちならして身を引いた。
(…………?)
「………今夜は私じゃなくって、ここにいらっしゃるオス牛さんたちに花嫁を奪われちゃうことにしましょう!!・・・1回味わってみたかったんですよ、なにしろいつも奪ってばっかりでしたから〜〜」
(!?)
「たまには不幸を味あわないと不公平ですから、ねぇ?・・・今からわたしは、不幸にも式場で花嫁を奪われ、目の前でめちゃめちゃにされちゃう間抜けな新郎になっちゃうことにし……」
ぶフぅぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!
ごぉぅぅもおおおおおおおおおおおおお!!!!
ドドドドド・・・
バグーの皮肉めいたセリフは、先を争って押し寄せる猛牛どもの雄叫びと怒号によってかき消されていった。
「い……いや………やだ」
唯一の復讐の好機を、憎っくき相手の気まぐれな一言で打ち砕かれてしまったランディの絶叫も、大切に守ってきた誇りと純潔もろとも、欲望のままに踏みにじられていったのだった。
「ィ嫌ャァァァァァアアアアアアアアッ!!!」
「ああそうそう、こういう娯楽を太古の民衆たちは、"ネトラレ"と呼んで随分楽しんでいたのだそうですね………大切な妻や恋人を奪われて嬉しいだなんて、全く昔も今も、人間という生き物は理解不能です…………」