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アラサー冒険者
官能リレー小説 - ファンタジー系

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アラサー冒険者 11

・・・"浮泳漏悶"
この世界の太古の伝承にわずかに残されるこの言葉について解説しなければなるまい。

ゴキブリという虫の"浮泳漏悶"・・・

・・・フェロモンをご存じだろうか?
昆虫は種類と生息範囲の広さで人間を凌駕し、そのメスが出すと言われている、繁殖のための求愛フェロモン。
その効果範囲は諸説あるが、他生物とは比較にならぬほど広大だ。その小さな個体の効果範囲は想像を絶するのである!!
その嗅覚のものすごさと執念、生殖のために発揮される途方もないスタミナとパワーの爆発!!

ランディの前で繰り広げられる牛どもの異常な発情とバグーの負傷への回復効果は、その片鱗にすぎない。

オッホン。

と、自分の演説欲求をようやく満たしたバグーが、なんともわざとらしい咳払いをした声にランディは我に返る。
奴の発声方法から推察すれば、そもそも咳払いそのものが全く必要ないと理解できる。
なんともふざけた、しかし恐ろしく狡猾な生き物だ。

(……わたしは、こんなやつに……こんな虫けらのような奴に……)

我慢の限界に達した20頭ほどの観客どもが、それぞれの魔羅を振り立てながらその場で跳躍し始めるのを、まるで別世界の出来事のように眺めながら、彼女は自身の半生を振り返る。
・・・苦労して育ててきたスコルが13歳をいくらか過ぎ、随分手がかからなくなり始めたころの、ある夏の夜。

あまりの寝苦しさに、近くの滝のそばで水浴びをした月夜の晩。
当時20代半ばの彼女の一糸まとわぬ姿を、物影から息をひそめて見つめていた、幼くも情熱的な視線があったことを思い出す。

こちらも暗視能力があり、すぐにスコルををとがめて叱りつけることは、いくらでも出来たはずだった。

しかし彼女はあえて騒ぎ立てることなく、気付かぬ振りをするに留めたのである。

その晩以降、夜毎に自分の生まれたままの姿をスコルに披露する行為を繰り返すこととなった。
幸い、オスがメスに対してどう行動するべきか教えてくれる者もなければ、知識も備わっておらぬ彼が、覗き以上の行為に及ぶことが無かったということもある。

そして何より、亡くなった相手への想いを断ち切れぬまま操を立ててしまった彼女自身にも、教えるような経験や知識は、まるで無いに等しかったのだ。

ランディにとって恋愛の対象である男性というものは、物々交換目的で村や里を訪れた際に出会う人間など論外だったし、彼女の野生のしたたかさにひそむ情愛に惹かれた、別部族の若者たちに対しても全く興味を示さなかった彼女には、まだ幼いスコルだけが、唯一心を開ける相手なのだった。

しかし。
彼女が彼の行為を許した本当の理由は、孤児となったスコルの出生に起因する。

彼こそは、ランディがかつて密かに愛しながらも、彼女の親友の気持ちに気付いて身を引いてしまった相手とのあいだに残された遺児だったからである。
人間どもの迫害によって、親友夫婦を含めた仲間たちは全員殺され、スコルとランディふたりきりの奇妙な協同生活が始まった。
日を追うごとに、彼女がかつて愛した若き狼の面影を強めてゆく彼の成長を見守ることが彼女の生き甲斐になった。
しかしいつしかそれは、彼と共に生きることを切望してやまぬ、ひとりの女としての願いに変貌していく。

今なお純潔を通しているのは、伴侶を亡くしたオオカミが、滅多なことでは新たな伴侶を求めないという特徴とも重なるのだったが・・・

本音を言えば、10年以上も年下の相手を密かに想っていることを長い間、素直に表せずに時を過ごしてしまったというのが実際のところであった・・・


『わたしにかまわず逃げなさい、スコル!!』
『!?……ね、ねーちゃんッ!!』

最愛の人狼青年と最後に交わした言葉が彼女を勇気づける。
自分のことなどどうでもいい。
自分が今さら報われなくたっていいのだ。
あの子にとっての自分は、母親代わりの「ねーちゃん」で構わない。
あの子が無事に逃れて、いつかふさわしい伴侶を見付けてくれるのならば、自分はこんな虫けらに犯されようとも何でもないではないか。
それこそ、虫に刺されたようなものじゃあないか?

そう思い至ったランディの口元に、不敵な微笑みが浮かんで来る。
第一、このゴキブリ野郎が自分を凌辱するその瞬間こそが、反撃する最大のチャンスではないか。


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