半人前サキュバスの奮闘記 3
見渡す限りの草原。
フラフラと人影を探してひたすら歩くけれど、いつの間にか座り込んでしまった。
「もう、疲れたなあ……」
時計がないから、今の時間も当然分からない。
歩いて、どれぐらい時間が経っただろうか。
お腹の音がする。
そういえば私、起きてから何も食べてないや……
ふと。
全長1メートルくらいある獣が近くに寄ってきた。
「え……」
向こうの獣も、私と同じくお腹を空かせているみたいで。
私を見て、牙を剥き出しにして、襲いかかってきた。
「痛ッ!!」
物凄いスピードで飛び跳ねてきた獣は、私の太股を食いちぎられた。食いちぎられた部分から大量に血が流れてしまう。
寸前で左に避けたけど、もしあのまま突っ立ってたら、私の右足は……
「うっ……うぅっ……」
痛くて。恐くて。
目から涙が溢れてた。
起きてから、訳分かんないことばっかり。
何でこんなところに一人いるのか。
どうして自分の名前も、おうちさえ分からないのか。
あまつさえ辺りを散策してたら、急に獣に襲われるし。
もし、夢なら。夢なら早く覚めて欲しいな。
獣を前にして、私はゆっくりと目蓋を閉じた。
「まったく。同族の匂い嗅ぎ付けて来たと思ったら。」
ボン、と火が燃える音がした。
「きゃあ!」
目を開けると、目前にいるはずの獣が、炎に包まれていた。隣に、紫の翼を生やした色っぽい女性の人がいる。
「きゃあじゃないわよ。きゃあじゃ。これぐらいのことで驚いてんじゃないわよ………ん〜?…アンタ、同族のパチもんにしては、ちゃんとしたの生やしてるじゃない?」
ぼうぼうと燃えている獣の断末魔をよそに、女性は私に生えてる不思議な尻尾?をまじまじと観察している。
「ん?それに、やっぱ微かだけど、私たちと同じ匂いがするわね。」
今度は私のうなじやお腹をくんくんと嗅ぎはじめた。
「あ〜も〜、鉄臭いのよアンタ。ちゃんと嗅ぎわけられないじゃない。」
悪態をつきつつ、女性は私の食いちぎられた足の部分に、両手を添える。
黄金色の光が見えたと思ったら、痛みがなくなり、私の足が元通りになっていた。
「ッ!……もう痛くない。すごい、傷痕も血もついてない。……あの、あのあの!ありがとうございます!貴女は命の恩人ですっ!」
女性は、治った私の足にはちっとも興味なさそうに、また私を嗅ぎはじめた。
「あ、やっぱり。アンタ同族だわ。」
「…あ、あの…その………えぇ〜〜っと……はい?」
「サキュバスだって言ってるの。…最初は私たちの偽者気取りのバカかと思ったけど、間違いないわ。アンタはサキュバスの匂いがする。」
私に記憶がないせいか、言われてる内容が全く分からない。
さきゅばす?
何かの食べ物の名前かな?
「けど、なんだってアンタ翼出してないのよ。そんなじゃ人間だと思われても仕方ないでしょ。……ほら、さっさと出しなさいって。」
つばさ?
「ぁ……そ、その。出すって、どうやって?」
つばさって、この女性が背中に生やしてるやつを?
どうやって?
「アンタ、サキュバスなのにそんなことも分からないの!?」
女性は大きくため息をつくと、私の肩甲骨付近をさすってきた。
「はぁ〜……アンタ、今までよく生きてこられたわね。」
女性は再度ため息をつくと、私の間近に顔を寄せるや否や怒られた。
「えっ……と」
「精気空っぽじゃない!アンタ早くしないと干からびて死ぬわよ!?良いからあたしについてきなさい!」
「きゃ……」
どもる私の二の腕を掴むと、女性は背中の翼をはためかせると私は、宙に浮いていた。
足が地についていないため、私は女性の身体にしがみつくばかりで精一杯だった。