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マッスル・ウィッチ
官能リレー小説 - ファンタジー系

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マッスル・ウィッチ 24

「魔導師殿、負傷者を救いたい」
「なかなか難しい仕事ですなぁ・・・素直に逃げた方が得策ですぞ、お嬢さん」

一応律儀に『お嬢さん』とは呼んでくれたが、どうにも慇懃な感じが絶対好きになれない。
それでも動けるのは彼女とドワサンしかいない訳だ。

「魔術で蹴散らしてしまう事は?」
「できなくないが、この規模となると我輩も呪文の完成に時間がかかるのだ・・・それに爆風で更に負傷者が増えるだろう」

つまり囮がいるのだ。
ドワサンとソニアはそう話し、転がっていく肉団子隊長を見て首を横に振る。
あの愚物は囮にもならないようだ。

全くの統制もなき乱射乱撃は野蛮人が打ち鳴らすドラムが如し。

そしてとうとう、パカン!とブリキ缶を開けた様に軽快な音を立てて、肉団子の脇腹が抜かれた。

「ぷぎぃいいいいいッ!?」

それも烏か野犬駆除に使う様な10mm口径そこらの火縄短銃。
この肉団子、既にまともな鎧を着られる体格も体力もない。
薄板に鍍金細工を施した、本来礼服としての飾り鎧である。
肉団子に一弾を喰らわせた十代前半かそこらの少年が、野豚でも仕留めたが如く驚喜していた。

そろそろこのお祭り騒ぎが血祭りに発展するのも時間の問題だ。
今度は真鍮細工の兜が砕け頭部からも流血、転がって逃げるのも限界だろう。

ソニアは救いを求め…というよりも責任を果たせと言わんばかり、ドワザンを睨む。

「私に市民と争う意志はない。」
「市民…だと?」

ソニアにはその『市民』という単語から、さながら意地悪な魔法使いの謎かけめいた意図を読みとった。
少なくとも彼は荘園領主の私兵と市民を区別している。

このドワサンという男、ああいう手合は苦手だ市民と争う気はない、などとほざいていた辺りも事態解決のヒントだろうか。
あの肉団子が済んだら、今度は負傷した騎兵隊の生存者に矛先、いや筒先が向く、考えろソニア…。

『伝令っ!伝令ーっ!』

そこへ空気を読んでか読まずか、騎馬伝令の兵が向かって来る。
ソニアは咄嗟に馬鹿こっちへ来るな!と怒鳴りかけたが、幸い武装市民は激しい銃声と肉団子料理に夢中だ。

「ドワザン殿、ここを頼む。」
「ほほう?」

興味深そうな表情をしたドワサンの前でソニアは土埃を払い、具足や着衣の乱れを直すなり、走り出す。

二十歳前だろう、少々粗野な雰囲気の伝令がソニアの姿を認め、馬上から雑に誰何してくる。

「おい君ぃ?戦線から突出した部隊だろう?責任者はいるか!」

突出した部隊、という嫌味は耳が痛い所、事実あの肉団子の半ば独断専行。
後続の兵員馬車や徒歩行軍との足並みも揃えず、騎兵一個小隊で格好をつけた結果、マスケット隊の足止め。

そこへ捨て駒作戦、宮廷魔術師の暴挙、市民の武装決起が重なった…。

口八丁で何とかするしかあるまいと、ソニアは首元から革紐で吊した二枚の認識標を掲げる。

「第一騎兵小隊所属、小隊長代理のソニア・グレン・ロッテンハイムだ!」

先程まで『何だこの餓鬼?』とナメきっていた伝令の日焼け顔が青ざめる。
わたわたと馬を降りるなり『失礼しましたぁ!』と兜の面を跳ね上げる敬礼、ソニアも軽く答礼。

ソニアは暴力で彼を屈服させる必要がなかった事に安堵した。

認識標、その真鍮板には単に乗馬資格を持った一般兵ではなく、正騎士としての所属階級が刻まれていた。
もう一方は略式の出身家系…つまりソニアが武家出身の正騎士であると、伝令兵は理解した。

中でもロッテンハイム家はさっきの肉団子や下手な貴族より格上である。
武家や貴族が実戦経験の為、一般兵と並んでの初陣はヴァーランドではよくある例だ。

「報告は!」
「はい!現在後続の…」

彼の報告だと後続部隊が合流すれば地方領主の城を落とすに十分たる戦力。

問題は武装市民、民間人との衝突は政治的にまずい。

「しかしすごいですね騎士殿!」
「ん?何がだ?」
「義勇軍でしょう!アレ!」
「え…。」

この伝令、随分と想像旺盛かつ楽観的な若者であった。

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