マッスル・ウィッチ 1
荒野に佇む廃墟・・・
その廃墟の広場であった所に、1人の女が立っていた。
折れた三角帽子と足まですっぽり覆うローブ。
その装束と首からかけられたヘキサグラムのペンダントで女が魔道士・・・
それも魔道士ギルド所属の1級魔道士だと見て取れた。
とび色の髪と瞳をした美少女。
まだ若い、20代前半か10代後半であろうか・・・
彼女は無造作に広場に立っていたが、おもむろに声を発する。
「そろそろ出てきたらどうだ」
良く通る声であった。
そして強い意志のある声だ。
その声に反応するように物陰や柱の陰から男たちが現れる。
総勢10名程。
風体はいかにもアウトロー。
そのリーダーらしき男が口を開く。
「テメェだな、アニキを殺ったのは・・・」
ドスの利いた声。
修羅場を潜り抜けた男の声だ。
「掃いた塵の事等覚えておらん」
不遜に鼻で笑う魔道士に男達がざわめく。
「ふざけたアマだ・・・だが、こんな所までのこのこ現れた事を後悔するがいいぜ」
リーダーの合図で全員が抜剣。
それなりに手馴れた行動だった。
「距離を詰めろ!、魔術を使う暇を与えるな!」
一斉に飛びかかる男達。
これは正しい。
魔道士と戦うなら懐に飛び込めは基本中の基本だ。
護衛の戦士がいなければ猶更である。
だが、魔道士は動かない。
魔術も発動させない。
何も対処する手段が無い・・・
いや、1級魔道士ともなれば、それなりの対処法は存在するし、詠唱時間が一瞬の魔術もある。
だが、彼女は使わなかった。
迫る白刃・・・
それが達しようとする直前に彼女が動いた。
旋風を巻き起こすような動きで1人の男の懐に飛び込むと、腹に拳をめり込ませる。
くの字に折れて吹き飛ぶ男。
更にそのまま身体を反転させ、隣の男に蹴り。
脇腹がグギリと嫌な音を立て、その男も吹き飛ぶ。
更に刃を潜り、3人目の男の顎に肘を叩き込む。
ゴギッと割れる音と共に男が吹き飛ぶ。
ここまで一瞬・・・
一瞬にして3人の男が吹き飛び、襲撃者達は呆然と動きを止めた。
これは彼らが思い描いたシナリオとは違う。
それでも態勢を立て直し構える男たちは流石と言うべきか・・・
魔道士は転がった3人を一瞥し、帽子とローブを投げ捨てる。
タンクトップにショートパンツのいで立ち・・・
魔道士のいで立ちとはかなり違う。
タンクトップを押し上げる豊満な胸が女である事を示しているが・・・
腕も脚も腹も巌のような頑健な筋肉で覆われた肉体。
それはただ鍛えただけと言う筋肉では無く、実戦で磨いたのだろう・・・
全く無駄が無い。
だが、肝心な事がある。
「ま、魔道士だよな?・・・」
「女?・・・だよな・・・」
そう・・・
一瞬で3人を屠ったのは、魔術では無く肉体で・・・
彼らの言葉はさもありなんだ。
それに対して鼻で笑う魔道士。
いや、筋肉美少女。
「これが、我が魔道なり!」
いえ、筋肉です・・・
非常識な魔道士に面喰いながら、リーダーは記憶を探る。
確か、彼の兄貴分とその仲間たちの死因は全て撲殺・・・
撲殺・・・
撲殺である・・・
「ええい!、拳と剣なら剣の方が有利に決まってるだろ!・・・それに所詮アマだ!、やっちまうぜ!!」
一瞬嫌な予感が頭をよぎるが、リーダーは後には引けぬと仲間を鼓舞して襲い掛かる。
だが、待っていたのは・・・
「ぐへっ!」
「ぎやぁっ!!」
「ごぶふぁっ!!」
吹き飛ぶ男達。
拳、そして脚、肘に膝・・・
あらゆる部位が襲い掛かり、男たちを仕留めていく。
いつの間にかリーダー以外の男は、魔道士もとい筋肉美少女に触れる事すらできず地面に転がっていたのだ。
「この1級魔道士マリー・ユグドラルの魔術を前に、貴様らの攻撃等無力に過ぎん!」
(注)魔術は一切使用しておりません。
可愛げな名前に非常識な筋肉。
その非常識なまでの筋肉の暴風に、リーダーは呆然とするしかなかった。
彼の手下達は、床に転がり・・・
どう見ても息絶えている。
リーダーの脳裏に楽しかったアニキと仲間たちとの思い出・・・
村を焼いたり、善良な人を殺したり、お姉ちゃんをみんなで犯したり、略奪品で飲んで騒いだ楽しい思い出が走馬灯のように流れた。
「冥途の土産に見せてやろう・・・我が必殺の魔術!」
「ヒッ!!」
リーダーが逃げる暇も無く筋肉の暴風が襲い掛かる。
凄まじい速さでリーダーにタックル。
それだけで呼吸が一瞬止まり、剣を落としてしまう。
だが、これで終わりでない。
タックルで掴んだ体勢でリーダーが持ち上げられる。
この筋肉美少女よりリーダーの方が縦も横も大きい。
だが、そんな事もお構いなしに、軽々と持ち上がっていく。
リーダーの頭部を腋に抱え込み、もう片方の腕でベルトを掴み、身体が逆さまになるまで真上に持ち上げる。
リーダーは足をジタバタさせるが、その筋肉は微動だにしない。
「いくぞ!、食らうがよい!!」
抱え上げたまま回転が始まり、その回転速度の速さにリーダーは抵抗どころでなかった。
それはまるで竜巻・・・