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マッスル・ウィッチ
官能リレー小説 - ファンタジー系

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マッスル・ウィッチ 23

これは悪夢なのか?怖い方の御伽話に迷い込んだのか?

「ぷひぃ…ぷはぁ…?」

吹き飛んだ騎兵隊側の負傷者の山から、一応は騎士らしく着飾った固太りの大男が這い出て来た。
東方のスモトリめいた身体が増加装甲の役割を果たしたか、
それともまさか、配下を肉の楯に代用したか…騎兵小隊の愚劣な指揮官であった。

「おいっ!そこのお前ら!えーと魔術師と…あと…小僧っ!」

ソニアは怒りに目を丸く見開き、唇を噛み締めていた。
自分の配下をどこの誰とも(性別さえも)掌握せず、名無しの何者が如く扱い。
こんな男の為に同期二人を失ったのか?

しかも非道な作戦の共犯者たる、直属の部下にさえ呪詛を吐き足蹴にしている。

「何が起きた理解出来んが…うむ。」

小隊長は不安そうに辺りを見回し、暫し思案する仕草を見せた。

そんな思案・・・きっと素晴らしくろくでもない事を考えている愚物を、怒りで直視できなくなったソニアはドワサンに目をやると、彼は虚空を見つめブツブツ言っていた。
これはまた彼方の世界と交信してる系かと、愚物指揮官と同じぐらい軽蔑の目で見たソニアだったが、それが長ったらしい呪文だと気付いたのはこのすぐ後だった。

ドワサンの長ったらしい呪文が完成し、杖から現れた複数の火球が放物線を描いて飛んでいく。
それは道路や建物ごと敵兵士を吹き飛ばし、またもやさっきより弱いが爆風がソニアに叩きつけられる。
つまりドワサンは油断せず呪文を詠唱させて、付近で彼らを狙う敵兵士達を吹き飛ばして片付けた訳だ。

ディックのような熟練の傭兵騎士からはお笑い魔導師扱いされるドワサンだが、一般レベルで言えば十分優秀な部類なのだ。
戦場経験も手慣れた猛者の部類だ。

「むっ!?、こんな幼いお嬢ちゃんまで戦場に出すとは上層部は何やってるのだ」

ドワサンの方はソニアが女と理解したが、ささやかすぎる胸のせいで幼女扱い。

ドワサンは本気で誤解し、全くの悪気は無い。
胸が無い故にまさかの幼女扱いは、悪気が無いだけに更に残酷だった。

ソニアの心が泣いた。
そしてドワサンを心の中で、突き、刺し、斬りで3度程殺した。

そして件の愚物指揮官は、ドワサンの魔術で再び転げ回っていた。

「なっ!、何をやっとるんじゃぁっ!!」

転がりながら怒りをぶつけるように叫ぶが、そもそも怒るのはお門違い。
かなり荒っぽいが、ドワサンの魔術が無ければ雑兵相手に全滅の憂き目もあったレベルだ。
これで少なくとも『魔導師の呪文完成まで騎士団が肉の壁で守った』ぐらいの言い訳が立つ。
ソニアが心の中で殺した事すら失礼なレベルだ。

「所でお嬢ちゃん、あのミートボールが指揮官かね?」
「私は大人だっ!、お嬢ちゃんはやめてくれ!!」
「おお、すまないお嬢さん、私はてっきり女学生だと」
「正・式・な・騎士だっ!・・・それに本当の事でも上司に向かってミートボールは聞き捨てならん!」

そこでまた別口の敵意を察したドワサンは、あらん限り反論するソニアの口を封じる。

「姿は消せるが声は消せん。」
「むきゅ?」
「それにああいう手合は苦手でな。」
「ふもっ!」

小声でドワサンが示す先、街の方々から続々集結する武装市民。
大半は民兵お下がりの火打式マスケット銃、足りない分は雑多な旧式銃や猟銃、短銃で補い武装している。

「この街には何挺の鉄砲がある?兵と民の分別は?」
「剣術や魔術と無縁な野蛮人が扱うだけなら手頃な武器だ。」

呆然自失『無傷で街を制圧する筈』『俺は悪くない』と譫言を呟く小隊長が、武装市民に捕捉された。

「何だあのブリキ肉団子?」
「あいつか?あいつが街を焼いたのか!」
「殺せ!殺せ!ブッ殺せぇ!」

我先にと威勢の良い若衆がラッパ銃から盛大に古釘散弾をブッ放す。

彼に付けられた新しい呼び名・・・
肉団子隊長は甲高い悲鳴を上げる。

「ひいぃっ!!、私を誰だと思っているっ!、この下賤の者共めっ!!」

器用に転がりながら弾を避ける技術はある意味只者ではないかもしれない。
偶然であっても。

肉団子が土煙を上げながら転がり避ける。
丁度、緩やかな上り坂であった事も幸いしたのだろう。
彼がどこぞやの『使えない』下流貴族出身だった事を思い出しながら。ソニアは弾に当たらぬ事に舌打ちする。

こうしてソニアのいつかは殺すトラウマリスト入りした銃士、魔導師、貴族であるが・・・
とりあえずこの眼の前の状況を切り抜けなければならない。
多くの負傷した仲間を放置して逃げる選択はソニアには無い。
だが、この状況で銃火器を制する事ができるのは彼女が嫌いになれたこの陰険そうな魔導師しかいない。

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