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淫妖伝――生存者(サバイバー)
官能リレー小説 - ファンタジー系

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淫妖伝――生存者(サバイバー) 10

それが彼女はできないので、自分が性虐待をした義父となるロールプレイングを行い、想像の義父を殺害しようとした。
自分ではなく義父が感じる痛みなのだから、自分が痛いのは彼女にとって不条理なのだ。
だから痛みの感覚は、解離症状で記憶から瞬時に抹消された。
義父を殺してもいいからやりたいようにすれば、そのあとは、彼女が性虐待をする義父的なものと判断する者を攻撃し続けることを繰り返す以外は、他人に自傷行為を幇助させたりはしなくなるはず。
たしかに琴音は思い浮かべたが、医師として出してはいけない結論だとわかっている。
「自分の体がどこにもない、と思ったことはありませんでしたか。無理に思い出さなくてもいいですから。今度また話を聞かせてください」
琴音がそう言うと、彼女は椅子から立ち上がり顔を近づけると琴音の唇を奪った。
「先生、またね」と彼女は微笑して、診察室から帰っていった。
斗真は自分に行われた性虐待を他人に行うように真理に甘えつつ悦楽の底無し沼へ引きずり込んでいる。 
しかし多数の患者の声を聞いてきた琴音でも、子供の斗真に大人の女性、まして母親の真理が調教されてしまうとは思ってもいなかった。
「子供の場合は親の期待していることを裏切らないように強く意識するケースもおおいに考えられます。しかしその反動のように、反抗期になると親離れをしようとしてみます。ところで斗真くんは父親について会ってみたいと言ったりしますか?」
「いいえ、言ったことはありません」
「斗真くんはお母さんがいれば、お父さんはいらないと私には言っていました」
真理は女医が何を言いたいのか、近親相姦の秘密を知ったのか警戒しながら黙って聞いていた。
「男の子が母親を慕う傾向があるとも言われていますが、ジョイント・アテンションという言葉があります。少し説明します」
発達心理学では二人が肩を並べてひとつの対象を眺めることをジョイント・アテンションという。
「子は母の視線を追い、母の見ている対象を共に見ながら母の言葉を聞く。逆に母も子の視線を追い、子の見ているモノを共に眺める。
このような共同の行為のなかで得られた経験が成長へ展開する」
という説明を真理はうなずきながら聞いた。
「おそらく、斗真くんはこうした時期であると思われます。あと霧野さん、源氏物語をご存知ですか。斗真くんは今、お母さんがいなくなると光源氏が母親を慕い続けたようになるかもしれません。もしも、再婚なさる予定があるのでしたら、斗真くんは相手の方になつきにくい心理状態ですので、そこはご理解下さい」
「先生。私、再婚の予定はありませんから」
真理が笑顔になったので、琴音は安心した。トラウマを抱えた本人より、それを見守る家族が不安になり取り乱してしまうことで、それが自分のせいだという罪の意識を感じて、さらに悪循環に陥るケースは多い。
「特に処方する薬は斗真くんには必要ありません。あとカウンセリングは月に一度で経過をみましょう。なにか気になることがあればクリニックのホームページからメールで相談していだだければ、確認して返信するかカウンセリングを行います」
「気になることですか?」
もしも斗真が自傷行為をしたり、フラッシュバックで怯えたりしたら、すぐに知らせてほしいと琴音は真理に伝えておいた。

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