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淫妖伝――生存者(サバイバー)
官能リレー小説 - ファンタジー系

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淫妖伝――生存者(サバイバー) 9

斗真は性的虐待を受けている自覚はなかった。
母親の真理に家庭内暴力を加えている自覚もなかった。真理は他人に小学生の息子が「きれい」だと誉めながら禁断の悦楽を与えてくれることは黙っていた。
斗真も母親の真理と「なかよし」だという認識で、それはセックスして愛情を感じあっている夫婦のような感覚に近いが「なかよし」と聞いて快楽を貪りあっていると気がつく者はいなかった。
斗真と真理が月に二度通っているメンタルクリニックの医師、北河琴音は斗真から「お母さんとなかよし」という話を聞いて、気持ちが落ち着いて笑顔を見せる斗真の頭を撫で「斗真くんは優しい。とてもいいところです」とほめた。
北河琴音は駅前に開業しているが、元々は大きな病院に勤務していた。斗真の母親より少し年上の女医である。
女医、北河琴音は少し疲れていた。斗真の診察の前に、服で隠れる首から下の身体が傷痕だらけの二十歳の女性のカウンセリングを行っていたからだ。
十四歳から十六歳まで、義父の性虐待を受け、彼女は不感症になった。また男性を不潔に感じ、レズビアンに興味を持つ。レズビアン専門のウェブサイトで彼女より二歳年下(十六歳)の女性と知り合った。その娘に、義父からされたことを「そっくりやり返し」たという。膣に指を入れてこね回した。彼女がタチでその娘がネコ。その娘は「実父からの性虐待被害者で自傷癖がある」と彼女に言った。だから性器には触らせない代わりにその娘の好きなように、彼女の体に傷をつけさせてみたという。
「そういう時は、興奮のせいかほとんど痛みを感じないんですよ、先生」
三ヵ月の間に、彼女の体はカミソリやナイフで傷だらけになった。その傷痕は消えていない。
「痛みをあまり感じなかったんですね」 
琴音は話を聞きながら、解離症状あり、と小さくメモ書きした。
解離症状では、体験や、感情、感覚、意識の一部が統合を失い、意識化されなかったり、感じられなかったり、なくなったように感じる。
解離症状は、正常から病的症状まで連続性のある意識の状態で、正常者では、読書に没頭しているような状態、映画館で好きな映画を見ている時、ぼうっとしている状態、空想にふけっている状態、白昼夢のような状態が軽度の解離状態といえる。
一方、重症の病的な解離症状は、精神科医や心理カウンセラーでも、幻覚、妄想や混乱状態と混同してしまい解離症状を把握していない場合がしばしばみられる。
また一応の知識は持っていても、この症状を経験し理解していないと見逃してしまうことが多い。
不感症、無痛症、どちらも彼女のケースは解離症状で、他人の体を使ってトラウマとなった行為を被害者から加害者となって再現して、体験の反復をしようとした。再現されたくない。それは恐怖そのものだからだ。聴取した面接虐待の記憶が正確に患者の述べる通りであるかどうか、それには、疑問を持つ臨床医もいる。
琴音は、大部分は真実である極端な虐待の事例を聞いていると、治療者の方が情緒不安定になることがある。
これは、代理受傷、間接的トラウマ、外傷性逆転移などと言われるものである。
命が危険にさらされたり、生活が困難な状況になったりする他「他人の手による自傷行為は危険です」と彼女に説明して、琴音は言ってはいけない言葉をのみ込む。 
彼女は本当は性虐待をした義父を刃物で切り刻んでしまいたいのだ。

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