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既に詰んだ領主に転生した男の物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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既に詰んだ領主に転生した男の物語 3

容姿に関しては…だ。
…というのもこの二人、その容貌に反して性格に難有り…というか、決して悪い人間ではないのだが、ちょっと変わっているのだ。
父は、僕への挨拶もそこそこに、先程からテーブルの下でしきりに何かを弄っている。
それは錠前(じょうまえ)であった。
そう、あの扉の前にぶら下がっている…鍵を使って開ける…あの錠前である。
何を隠そう僕の父、ウォルコンスカヤ伯爵は“超”が付く程の錠前ヲタクなのだ。
彼は何よりも錠前を愛し、錠前に人生を捧げていた。
そんな彼の部屋は古今東西の錠前で満ち溢れており、錠前の博物館を開ける程である。
母は、前述の通り一人息子である僕を溺愛しているのだが、その偏愛っぷりが少し常軌を逸している(まあ、これに関しては後に詳述の機会を設けるとしよう)。
ちなみに昨日までの僕は、こんな自分の両親に対して何の違和感も感じてはいなかった。
だが前世の記憶が覚醒し、物事を客観的に見る事が出来るようになった今、心の底から思う。
この人達はおかしい。

食事の後は勉強の時間だ。
「おはようございます、ヘレン先生」
「おはようございます、クリストフ。それじゃあ昨日の続きから始めましょうか。『フェルシオールの歴史』の135ページを開いて…」
家庭教師のヘレン・サリヴァン先生…一応“男爵夫人”の称号を持つ貴族だそうだが、彼女の家は貴族といっても貧しく、おまけに若くして戦争で夫を亡くして独り身となった。
家名を売って修道院に入るか娼婦になるかの選択を迫られていた所を、今は亡き僕の祖父…先代ウォルコンスカヤ伯爵が、孫である僕の家庭教師としてスカウトしたのだった。
そんな経緯もあって、ウォルコンスカヤ伯爵家には並々ならぬ恩義を感じているようだ。
眼鏡をかけていて美人…という点はメイド長のアンナと共通しているが、ヘレン先生にはアンナには無い“落ち着いた気品”のような物がある。
まぁ、どちらも甲乙付けがたいのだが…。

ちなみにこの世界には小中学校に相当する機関が無い。
貴族として恥ずかしくない知識や礼儀作法などは、各家庭で家庭教師を雇って子供に教え込むのが普通なのだ。

「…という訳で、各地方を治めていた領主達がフェルシオン王家の名の下に統一されて出来たのが、現在のフェルシオール国王…」
「……」
歴史の授業は退屈だった。
思い起こせば、前の世界でも歴史は苦手だったっけ…。
でも今の僕はそれを苦痛とは思わない。
ヘレン先生の美しい横顔を眺めているだけで幸せな気分に浸れるからだ。
「もう〜、クリストフ?ちゃんと私の話を聞いているのですか?」
「…へ?…あぁ…も…もちろんだよ、先生!」
「ではフェルシオール王国の主要十貴族の名前を言ってごらんなさい?」
…言える訳ない。
困っている所にメイド長のアンナが現れて告げた。
「失礼いたします。坊ちゃま、お時間でございます」
(助かったぁ!)
「あら…それではこの問いは宿題にしましょう。明日また同じ事を尋ねますから、ちゃんと調べておくのですよ?」
「うん!ヘレン先生、ありがとうございました」

ヘレン先生の見送りもそこそこに僕は服を着替えさせられる。
「坊ちゃま、本日のお召し物はこちらでございます」
アンナの後から服を持ったメイドが現れる。
その後からはウィッグ(かつら)を持ったメイド。
さらにその後からは様々な小物類を持ったメイド…。
「きょ…今日もなかなか豪勢だね…」
「奥様のコーディネートでございます。さぁ、お洋服を脱ぎましょうねぇ♪」

数分後…
「まぁ〜坊ちゃま!!とても良くお似合いですわ〜!!」
「本当!!何て愛らしいんでしょう〜!!」
「まさに天使ですわ〜!!」
「……」
着替えを済ませた僕を見てはしゃぐメイド達。
当の僕は全身の映る大鏡を前に半ば茫然自失としていた。
鏡の中にはドレス(前世の世界で言う所の、いわゆる“ゴスロリ”というやつだ)に身を包んだ一人の美少女がいた。
そう、これが母の趣味…彼女は僕に女装をさせて愛でる事を趣味としているのである。
しかも毎日違うドレス、違う髪型(かつら)。
正直、今現在この屋敷にある僕の服は、男物よりも女物の方が多いだろう。
間違いなく、確実に…。
(しかし悔しいけど我ながら良く似合ってるよなぁ…)
僕は鏡を見て思う。
まだ10歳ではあるが、僕は女顔だ。
前世では醜男(ぶおとこ)という程でもなかったが、あまりパッとしない顔立ちだっただけに、今の容姿は嬉しい…が、こうなると素直には喜べない。

ちなみに母は僕が赤ん坊だった頃には殆ど興味を示さなかったクセに(まぁ、乳は乳母からもらっていたし、貴族の女性が子育てをしないのはこの世界では普通である)5歳になった辺りから手の平を返したように猫っ可愛がりし始めた。

確かに彼女は僕を愛してくれているが、それは“息子”としてというよりは“お気に入りの玩具”…“可愛い着せ替え人形”としてだ。
前世の母親が僕に対して注いでくれた愛情とは少し…いや、かなり愛情の性質が異なるような気がする…。

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