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既に詰んだ領主に転生した男の物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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既に詰んだ領主に転生した男の物語 11

私はそのグループに別れを告げ、それから適当に酒や食べ物を口にしながらやり過ごしていた。
やはり王宮の酒と料理は逸品である。
私は舌鼓を打っていた。
そこへ…
「やあ!ウォルコンスカヤ伯爵」
「元気だったかね?」
軍服に身を包んだ連中が近付いて来た。
「やあ、シュルツ兵部大臣にミラン参謀総長、それに皆さん…(くそ…面倒な連中に捕まってしまった)」
私は正直、軍人というのはあまり好きではない。
兵部大臣は言う。
「伯爵、確か君の領地は東部だったね…となると東部国境での争乱にも無関係とはいかないだろう?」
「ええ、まぁ…」
我がフェルシオール王国と東の隣国エルス帝国は数百年来の仇敵同士である。
その東部国境が近頃きな臭くなっているというので、開戦を望む軍部の連中と平和を望む元老院議会の重鎮達が対立を深めていた。
「ならば今度の元老院議会、君も出兵に賛成票を投じてくれるだろう?」
「そうですねぇ…」
我が家の領地は東部とはいえ国境に接している訳ではないので、正直、個人的にはどちらでも良かった。

そう言えば改めて会場内を見渡してみると、今日の舞踏会には軍服姿が多く目立つ。
一方、元老院の長老連中もしっかり顔を揃えて睨みを利かせている。
お互い“営業”には余念が無いようだな。
ご苦労な事だ。
こんな場でくらい政治や軍事や外交の事など忘れて楽しめば良いのに…。

そこへ、一人の男が近付いて来て小声で言った。
「諸君“女狐”のおでましだ…」
入り口の方にちょっとした人集りが出来ている。
今しがた会場に姿を現した夫人に人々が群がっているのだ。
ルクサーナ・エルヴィン公爵夫人。
その美貌と洗練された立ち振る舞いから“フェルシオン社交界の華”と賞賛されている若き未亡人である。
若い娘達などこぞって彼女のファッションを真似し、男達は何とかして彼女を口説き落とそうと夢中だ。
彼女の周りには常に人が集まる。
だが一方で“女狐”という言葉が示すように彼女ほど評価の別れる女性は居ない。
それは彼女の出自と今に至るまでの経緯に起因している。
彼女は平民出身の娼婦だった。
正確には王侯貴族向けの高級娼婦で、今まで何人もの貴族の男達が彼女に入れ込んだ挙げ句に破産に追い込まれて来た。
その後、自分より何十歳も年上のエルヴィン公爵(ちなみに公爵と言ったら王家の遠縁である)の夫人の座に収まったかと思いきや、ものの数ヶ月で公爵を腹上死させて公爵家の領地と屋敷をそっくり手に入れてしまったという…まさに毒婦である。
男達は話し合う。
「いやぁ〜、しかし相変わらずの美しさですなぁ…」
「顔だけじゃない…あの大きな胸…尻…たまらん」
「いや、冗談抜きであの身体を一晩だけでも好きに出来るのなら、全財産…いや、命さえ惜しくないと思えるね」
「エルヴィン公も…きっと本望でしたでしょうなぁ」
「おいおい諸君、気を付けたまえよ?あの色香に惑わされて一体いくつの貴族がお家断絶になったと思っている?」
「いやぁ男なら仕方ない…」
「馬鹿…」
「いやいや皆さん、恐らくこのフェルシオンにたった一人だけ、あの女を前にしても食指の動かない鋼の男が居ますぞ…」
「そう言えばそうですなぁ…」
皆が私の方を見た。
「…何か?」
「いいや、何でも…マエストロ」
「君が羨ましいと言ったのさ。人生を捧げるべき趣味を持ち、色欲に心惑わされる事も無いんだからねぇ…」
羨ましいと言いながらも皆の私を見る目からは少しの羨望も感じられない。
彼らは私の事をどう見ているのだろうか。
…いや、そんな事いちいち尋ねるまでも無い。
錠前にしか興味の無い、枯れた(精神的)老人…。
解っているさ…マエストロ(工匠)という渾名(あだな)に尊敬の念など少しも込もっていない事ぐらい…。
だが彼らは一つ勘違いをしている。
私が錠前好きなのは単なる趣味からではない。
…というのも我がウェストリーニ家の先祖は、フェルシオール王国建国時の功績により、初代国王からウォルコンスカヤ伯爵の称号を与えられて貴族に列せられたが、その前は何だったかと言うと、代々錠前工だったのだ。
だから私は全く何の意味も無く錠前を愛でている訳ではない。
それは先祖から受け継がれたウェストリーニの血ゆえなのだ。
私は先祖の家業をやっているだけなのだ。
そう、先祖の記憶を…その営みを…魂を忘れないために…。
だがそんな事を彼らにいちいち説明してやる義理は無い。
どうせ「そんな言い訳とかしなくていいから〜(笑)」とか言って信じないのだ。
そうに決まってる。
話すだけ手間と時間の無駄だ。
「…失礼。少々、花を詰みに行って参ります…」
私は颯爽と踵を返し、その場を後にした。
遠ざかる背後から、若い貴族の青年と年配の貴族の会話が耳に入って来た。
「…でもウォルコンスカヤ伯って顔だけは良いから若い頃はモテたでしょ…」
「…いやぁ、顔は良くてもあの性格だからねぇ…たぶん恋愛とかした事無いんじゃないかなぁ…」
「…えぇっ!?寂しい人生っすねぇ…」
「…シッ!聞こえるだろ…」

くそったれぇっ!!!!

おっと…。
心の中の声とはいえ貴族にあるまじき言動であった。
くそったれ……丁寧に言い直すとすると、さしずめ『排便者』とでもいったところか。
排便者…彼らは皆、排便者だ。
他者を貶める事でしか自身の価値を高める事の出来ない哀れな人間達…。
あんな排便者達の言葉など全く気にする事など無いのだ。
そう、全く気にする事など無いのだ。

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