竜使いの少年 80
文化、芸能、芸術なども本気を出した竜にかなわないのも、敵愾心を燃やす理由になっている。
寿命が長いので、竜神に蹂躙された恨みも消えていない。
検討を続ける間に、列車は帝都に到着した。
駅からドアを何枚か潜るだけでプライベートルームだ。
元の世界だと、ありえない生活だなと少年は思った。
駅ビルに自宅を作るような、いや、自宅のための専用新駅が現実になっているのだ。
産業や税収は、どのように割り振っているのだろうか?
財宝を溜め込むほど儲かっているなら、竜王国の経営の参考になるのではないだろうか?
「帝国での徴税制度はどうなっているんですか?」
「徴税ですか?特に決まってはおりませんな。領域によっては、集めている所も有るらしいですが」
迎えに現れたドワーフに、豊は質問をしてみた。
しかし、侍従の回答は、拍子抜けするものだった。
会計の収支は限りなく丼勘定に近く、余った収益が献上されるのだ。
貿易も、かなり買い叩かれているのが実情だった。
個々の窯元や工房が、地元の商店相手に出荷をしているのだが、卸値と市場価格に10倍以上の価格差があるのだ。
時には価格差が3〜4桁に達する事もある。
日用品として売りに出したものが、非常に価値のある美術品として取引されていた。
「専売制、ですか?」
「うん、竜王国経由で出荷して、価格統制をする」
豊の提案に、侍従は戸惑っていた。
彼の案は期限付きで、特定の工芸品の取引を竜王国に集約するのだ。
トロッコ輸送網の使用料などに少し費用がかかるが、今の状態よりはかなり高く買い上げできる。
竜王国にしても、貿易でかなりの収入が期待できる一石二鳥の計画だ。
財政赤字にあえぐ竜王国の国庫は、どんな形の収入でも大歓迎だ。
永続的な専売制にするのは弊害が多いだろうが、10年くらいの期間限定なら問題にはならないだろう。
計画を形にするため、竜王国の経産竜官僚全員を召喚ゲートで呼び出した。
竜の会議は、他の種族の数倍の効率を持つ。
加速時間流で、集中的な討議ができるからだ。
一人一人が数百人に相当する能力を発揮して、計画を立案してゆく。
海港ベリスが、交易の中継点に選ばれた。
港の拡張が必要だが、地下の鉄道網との連結が理想的なのだ。
港の改修は、ドワーフを動員すればすぐだ。
後は、流通にかかわる業者の選定が問題だ。
「競争入札方式はどうかしら?」
「僕は、ミューゼ教団に頼んだらどうかと思います」
教団はミルク流通のために、かなり立派な商業部門を抱えている。
尼僧院で日用品の集団購入も行っているので、商人にはかなり顔が利く。
私利私欲に走る心配は少ないし、教団の懐が潤うと豊の懐が潤うも同然なのだ。
公私混同も甚だしいが、専制国家だからできる事でもある。
教母ゼリアを呼んで、財務担当の人材を紹介してもらった。
財務、商業部門は一人の人間が受け持っていた。