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竜使いの少年
官能リレー小説 - ファンタジー系

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竜使いの少年 53

「宿に巡礼として集まっていた方達は、ミューゼが集めた助っ人だったんです。代弁者の仕事の目処が立ったら、申し訳ないですけどそちらの仕事に専念します」
人間に影響力の少ない竜族では、使える手駒がミューゼの信徒だけだったのだ。
豊が召喚されて予想外の方向に転がるまでは、非力な少年を彼女ら信徒が守る予定で、彼の召喚に先立ってミューゼが神の啓示を下して集めたのである。
守る必要はなくなったが、手助け程度にはなると解散はさせなかったのだ。
そのお陰でミューゼの影に気付けたのは、望外の幸運といえた。

影の退治は、あくまでオマケの仕事。
本来は経産竜の誰かが引き受けて、少年の負担を無くすべき事だった。
突然の発言に抵抗し切れなかったが、打ち合わせで聞いていれば代弁者を引き受けなかった。
ミューゼは、わざと抜き打ちで発言したのだろう。

神の力をその程度に感じる時点で、少年の器は人間をはるかに超越している。
ちょっとややこしいけど、影は単なる魔術的な問題だとしか捉えていないのだ。

「質問が無ければ、平信者のミルク売りの皆さんは解散してください。位階持ちの方は他神殿へ伝令に行ってもらうので残ってください」
一挙に緊張感を失った集団は、ざわざわと雑談をしながら退出していった。
少年は気付いていなかったが、ミルク売りの口コミ効果には恐るべきものがある。
ものの1時間で、神殿での福音伝道の様子はベリス住民全てが知る事になり、後で報告を聞いて頭を抱えることになる。

伝令に持たせる書簡を教母ゼリアがしたためた。会議の内容の要約版だ。
豊とアリスが転写の魔法で複製の束を作ってゆく。
コピー機要らずの便利な魔法なのだが、必要な部数がとにかく多い。
神殿、分神殿宛だけでも、376部も必要だ。

尼僧院に届ける分も合わせると、六百部を超える量になる。
最初は正式な書簡用の羊皮紙を使っていたのだが、ストックが尽きたので普通の紙に切り替えられた。
刷り上った書簡は手早く巻かれて、教母の指輪で封蝋される。

「皆さんは、伝令に徹してください。見聞きした事を伝えるのは良いですが、私見は述べないでください。酷い目にあわされますから」
書簡を受け取った相手が、恐慌状態に陥るのは間違いない。
下手に代弁者を賛美する発言をしようものなら、自分の信仰を覆す敵と見做されるのは避けられない。

神であるミューゼが出向いても、説得に苦労したのである。
時間をかけて、本来の教義を浸透させてゆくしかないのだ。
最悪を想定するなら、守旧派と親代弁者派に分かれた宗教戦争すら起こる可能性がある。

「用事が済んだら、ミューゼの名の下に僕へ呼びかけてください。帰還ゲートを開きます。危ない目に遭ったら反抗せず降伏してください。必ず助けます」
注意事項を言い含めながら、ゲート魔法で伝令たちを送り出した。

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