竜使いの少年 15
「馬鹿者!ワシはまだ死にたくないわ!」
思わず本音を漏らす長老。
「…はぁ。もう良いですよ。で、何か案があるんですか?」
「うむ、正面撃破じゃ。ボスを倒して女と神器を譲って貰うのじゃ」
「無茶言わないでくださいよ」
縄張り争いのプロに、喧嘩を売るのは無謀だ。
「無茶ではない。全てが静止する神の領域に入れる婿殿なら、容易に達成できるはずじゃ」
「相手が同じ領域に入ってきたら負けますよ」
漫画などで頻繁に見かける、馬鹿一展開の王道だ。
「大丈夫、刹那の永劫を生きる竜は現存せぬよ。最後に領域入りしたのは、2000年以上前の『最後の執行者』竜神ファブニルじゃ」
「竜化できないと能力は使えませんよ。で、その竜化エネルギー源が無いから、無理」
昨夜の騒動でエネルギーを使い果たしたシールドの腕輪は、単なる装飾品になっている。
「そこで登場するのが、秘薬・龍精丸じゃ。竜の精気を濃縮した物じゃから効果があるかもしれん」
長老が茶色いガラス瓶を取り出した。征露○そっくりの丸薬が入っている。
「これを飲んで変身すれば良いんですね?」
「待て!今は飲むな!一粒が3カラットの最高級ルビーと等価の秘薬じゃからな」
一瓶あたりの時価総額を考えると、すごい事になりそうだ。
「原料は何?」
「ワシのキ○タマじゃ。去勢されたときに原料採取した一品物じゃ」
「うげ!エンガチョ!」
「エンガチョするな!失礼な奴め!変身は祭りの時に試して貰う。それまで適当に時間を潰しておれ」
そう言うと長老はどこかに出掛けた。祭りの準備で忙しいのだろう。
「アリスは、隕石から出てきた怪物について何か知ってる?」
暇つぶしに尋ねてみる。
「人間とは姿かたちは若干違うけど、危険な存在ではないわよ。あなたがどのような説明を受けていたのかは知らないけど」
「異常な繁殖力を持つ魑魅魍魎の類で、世界の人々は滅亡の危機に瀕しているって聞かされたよ」
「話に成らないわね。誰がそんな与太話をしたの?」
呆れたと肩をすくめながら、アリスが言う。
「エリルから聞いたんだけど。召喚されたときに」
「ご主人様は、少しは人を疑うことを覚えたほうが良いわよ」
勇者だの救世主と持ち上げられて、疑いも無くこの世界に来たのは軽率だったかもしれない。
「卑劣なゴブリン、好色なオーク、凶暴なオーガ、貪欲なトロール。他にもサキュバスだのインプだの色々居るじゃない」
「では、謎々を出してみようかしら?ゴブリンより卑劣で、オークより好色で、オーガより凶暴で、トロールより貪欲な怪物なーんだ?」
「人間」
ドラゴンと言おうと思ったのに、僕の口から出た答えは違っていた。
「竜は自分の欲求に素直で、欲望をかなえる力があるから悪く見られるけど、人間の本音を暴けば、竜以上に卑劣で好色で凶暴で貪欲だよ」
一時的にでも竜になったから良く判る。