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大淫者の宿命星
官能リレー小説 - ファンタジー系

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大淫者の宿命星 6

「うまく話せるかわからないけどさ……」
俺はぽつりぽつりとぎこちなく、彼女と話し始めた。
名前は自分から名乗らなかったので、何かしらの事情があって教えたくないものだと思っていたこと。
ただ一夜限りの遊び相手にされているのだろうと思っていたこと。だから、ちゃんと向き合って話したいと言われて驚いたこと。
セックスをしているうちに、本当に彼女だったらいいのにな、と何回も思ったこと。
単純に気持ちよくやりたいだけなんじゃないのかと自分のことを自問していたこと。

「今までどんな恋愛してきたの?」
今までつきあってきた女性たちは、セックスはしたが他の人と結婚するとか、元カレのことが忘れられないとか、本気じゃなくて遊びだったと俺から離れて、この三年ほど嫌気がさして誰ともつきあわなかった。
こちらが本気になるほど、別れはつらい。
仕事を辞めてアルバイトの収入しかなくなると、なおさら自信がなくなったこと。
「最近の一番のなやみは?」
これからとうやって生きるか考えると、気分が落ち込んで、考えがまとまらないこと。
家族は父親、母親がいて父親はもうすぐ定年になるのを気にしている。それまでに自立してほしいと、顔を見るたびに騒ぐ。不安なのだろう。
母親はその分だけ黙っているが、たまに将来のことは考えているか聞かれる。
姉は結婚して別に暮らしている。よく夫婦で家に遊びにくる。もともと姉とは仲がいい。
「そんな感じで、俺がしっかりしてない以外は特に問題ない感じなんだよな」
「話してくれてありがとう」
彼女が涙ぐんでいた。なんかそんなに情けないだけで悲しくなる内容は何もないはずだが。
「他に知りたいことはあるかな。酒はほとんど飲めない。最近の曲は知らないから、カラオケには行きたくないが、人がお酒飲んで楽しそうにしてたり、歌うのを聴いているのは嫌いじゃない」
「煙草はセブンスターだよね」
「うん。煙草は喫わない人だよね、俺が黙って喫煙してたけど、平気?」
「平気だよ。私はお酒飲むけど、顔が赤くなるだけであまり酔っぱらうことはないよ。カラオケは行かないけど、ラジオで聴いたことある曲なら歌えるかも。趣味はドライブかな」
彼女も話し始めた。俺は霊媒師がどんな仕事をしているのか気になっているが、まだ聞かない。
仕事の話はハードなほどストレスがたまる。愚痴を聞いてあげた方がいいのか、触れないほうが無難なのかわからない。
「苦手な食べ物ってあるかな。俺はバナナが苦手なんだけどさ……」
「おぼえておきます」
彼女がやっと笑顔にもどった。
「浮気したら、食べさせますからね」

彼女は俺にキスをしてから、俺の人生の打開策を説明した。
「私と結婚しちゃいなさい」
仕事は彼女の助手で、夫婦だから生活費は気にしなくても、彼女が稼ぐ。無職でも主夫でかまわないとのこと。
結婚したら、実家から出て一緒に暮らせばいい。
浮気はしかたないかもしれないけど、他の人とやったら、バナナを食べさせる。
離婚は認めない。
「ね、簡単でしょ?」
たしかに解決するが、いきなりすぎないか。
「私がもっと早くあなたを見つけていたら、嫌な目にあわなかったのに……ごめんね」
こうして、俺は霊媒師見習いとして彼女とつき合うことにしたわけだ。
結婚は今すぐ婚姻届を市役所に提出したがる彼女に、おたがいの両親にも挨拶してないから、嫌だぞ……とよくわからない言い訳じみた主張をして説得した。
「そうね、あなたは自分の宿命星について何も知らないものね。私の実家に行けば、おばあ様が説明してくれるだろうし……」
ラブホテルを出て、俺は彼女に連れられて駅前のパーキングに置かれた彼女の愛車に乗った。
軽自動車のかわいい感じの車を想像していたのだが、車に詳しくない俺でも知っている馬のエンブレムの高級車フェラーリだった。
そんなに霊媒師は儲かるのか。
「一緒に暮らすなら、いろいろ用意しなきゃね」
彼女はおそろいのマグカップが買いたいねと言いながらごきげんで、高速道路でハンドルを握っている。速度違反じゃないのか。
俺はこんな加速の車に乗ったことがなくて、がちがちに緊張しまくっていた。こわい。

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