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賢者ルシャード
官能リレー小説 - ファンタジー系

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賢者ルシャード 6

「使役するより、姉のシルヴィアに憑依させておくわけにはいかないと思います」
フェイランは魔法の新時代の幕開けとなるかもしれない召喚儀式の成功なのにもったいないと思ったが、ルシャードにしか成功しない召喚ならそれは意味はないとも考えた。
「手伝わせていただきますが、この記録は残させていだきます。
召喚儀式は本来は神託を授かる巫女が自らの体に女神を神降ろしをするものであったといわれています。
その秘術に近づく事例と思われるのです」
「女神……じゃないな。あれは」
ルシャードがぽつりとつぶやいた。

ビショップのフェイランはルシャードの才能をずっと見てきたが、驚かされてばかりである。上位の精霊を召喚したと報告しても他のビショップたちは信じないにちがいない。
禁忌である召喚儀式の催眠で少年が悪さをしたというのであれば、教団の幹部たちはすぐ納得する。過去にそうした問題を起こした聖職者がいたのだ。
ビショップやさらに階級の上の大神官でさえ小精霊までなら召喚して使役できるが、それ以上の大精霊は召喚できない。
それを公表すれば、奇蹟を起こした聖人として騒がれる。教団の幹部たちはルシャードの才能を認めないだけでなく、異端審問にかけると言い出しかねない。
それは避けたかった。
この少年は聖人だとフェイランは信じている。ここで終わらせるわけにはいかない。
ルシャード本人は聖職者になる気はない。





明日、祓いの儀式の準備をしておくのでシルヴィアを連れて来てほしいとフェイランが言った。
その日の夕方、教会から帰宅したルシャードは姉に話をもちかけた。
「あれっ、新しい魔法の実験につきあってくれるって姉さん言ったよね」
「教会で実験するなんて聞いてないけど」
シルヴィアはフェイランが苦手で騎士団と神聖教団は派閥ちがいなこともあり、あまりかかわりたくない。
「約束したのに……」
「しかたないわね」
二人きりだと思い込んでいたシルヴィアの落胆がその声にまざっている。
ギルセイバー家の財宝の中で守護の指輪以外にも特殊なアイテムがある。
破邪の剣もそのひとつなのだが、教会に預けられて厳重に保管されている。
十九歳で騎士団に入隊したシルヴィアが破邪の剣をもらいに行ったら、ビショップのフェイランに丁重に断られたことがあり、それから教会に行っていない。
フェイランがルシャードを特別な存在として見ているのも気に入らない。明らかにルシャードには特別待遇で態度もちがう。
ルシャードが十八歳になったら神官に推薦するのであずけてほしい。
フェイランが配下のプリーストたちを連れて家に来たのは、まだルシャードが七歳の頃だ。


「ようこそ、百騎隊長シルヴィア様」
フェイランが会釈をして挨拶をする。シルヴィアも作り笑いをしながら会釈をして挨拶をする。
「ビショップのフェイラン様、おひさしぶりです。お元気そうでなによりです」
ルシャードの目の前で見えない火花を散らす美女二人であった。
騎士で弟を好きでたまらない姉と将来の聖人だと少年を崇拝している聖職者。
ルシャードがいなければ、職業上では対立する派閥に所属している二人である。
「ルシャード様、準備はできております。こちらへどうぞ……」
教会の地下にある儀式の広間。その中央に魔法陣が描かれている。
その中には一本の剣が床に置かれてある。豪華な飾り石のついた鞘におさめられた剣――――。
「破邪の剣」
「そうです。どうぞ、シルヴィア様、手に取ってご確認下さい」
シルヴィアが魔法陣に踏み込み剣の鞘をつかむ。ゆっくりと刀身を抜き出した。
フェイランが祈りの聖句を詠唱する。
刀身が赤い淡い光を放つ。
「ルシャード様、大精霊を剣に封じ込めます。呼び出して下さい」
「ルシャード・ギルセイバーの名において命じる」
シルヴィアが剣を手にしたまま、ルシャードに話しかけてきた。
「てっきりもう呼び出してくれないかと思ったけど……隣にいるその女は何なのさ?」
「汝の名を剣に刻む者、ビショップのフェイラン。精霊よ、その肉体を離れ、剣に宿りたまえ」
シルヴィアが苦笑した。
「あー、無理。ぼうや、その女、少し黙らせて」
ルシャードはフェイランの肩にふれて、軽く首を横に振ってから「僕が交渉する」と言う。
フェイランが悔しそうにシルヴィアを見つめた。
渾身の秘術も軽くあしらわれたからだ。


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