異色の瞳 92
街まで後少しという所まで来た時の事…
「ちょッ!ディークさん止めてッ!」
何時もの様に賑やかな馬車の中。
一人窓の外の流れる景色を眺めていたゼロが、慌てた様子で叫びを上げた。
それに驚いた一同は静まり返り、ゼロを見る。
ディークも即座に馬車を止める。
「ちょっとゼロッ!」
静まり、固まった一同の中、フィウがいち早く復活して声を掛けるが、既にゼロは馬車を駆け降りた所であった。
それを追い掛ける様に、フィウも慌てて馬車を降りる。
左右を見回し、ゼロが今来た道を戻る様に走っているのを見付け、追い掛ける。
突然ゼロが街道脇の雑木林へ繋がる獣道へと逸れる。
少し遅れる様にフィウも獣道へと入り、雑木林の中に入って行ったゼロを探す。
「ゼーローッ!」
「フィウーッ!こっちだッ!」
声のした方を向くと、ゼロが手を挙げて手招きをしていた。
ゼロの元に着いたフィウは、突然の行動の意味が漸く理解出来た。
「…犬…?」
目の前にまだ小さい犬の様な動物が横たわっていた。
薄汚れた感じは、必死に何かを求めてさ迷っていた様で、あちこちに傷も見られた。
「…狼‥だ。まだ息があるから馬車に連れて行くぞ」
「狼…って、もしかして!?」
「正確には解んねぇ〜けど、可能性はある!」
ゼロは子狼を優しく抱き抱えると、馬車へと急ぐ。
「この子は…ッ!」
レオナの治癒魔法を受ける子狼は、次第に体力が回復するにつれ、人の形になっていく。
それを見たレースは思わず声を荒げてしまう。
「やっぱりな…知り合いか?」
目の前の子狼は、まだ幼い少女の姿となっている事に、ゼロは勘が当たったと口端を上げ、レースに問うた。
「…はい。私達人狼族族長のお孫様です。特にヤルと親しくして貰っていました…」
「ユーリ…」
レースが話すと、ヤルが心配そうに少女の名前を呼び、頬を嘗めている。
「もしかして…この間話てた事が事実なら…そこから逃げてきたのかも…」
フィウが神妙な顔つきで呟く。
「だとしたら、色々知ってるかもな」
ゼロが言うと一同頷く。
全ては少女の回復を待ってから。
街へ着き宿を取ると、少女をベッドに寝かせる。
ヤルは相変わらずユーリと呼び掛け、心配そうに顔を覗き込み、時折頬を舐めていた。
「後は目が覚めるのを待つだけです」
治癒魔法を掛け終わったレオナが、そう告げる。
見守る一同は一斉に肩を落とし、緊張が解れた。
割り当てられた部屋に各々荷物を運んでいると、ヤルはゼロに゛ある゛お願いをした。
「ヤル…男に戻りたい」
ユーリを心配する表情は、さながら大切な人の身を案ずる真剣な眼差しであった。
それに気付いていたゼロは、その願いをあっさり受け入れてあげた。