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異世界物語
官能リレー小説 - ファンタジー系

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異世界物語 3

俺はさっそくこのアイディアをマリエルに話してみた。
「う〜ん…私は冶金の知識は無いから良く解らないけど、町の鍛冶屋に行って話してみたら良いんじゃない?」
「町の?この村に鍛冶屋はいないの?」
中世史は詳しくないが、確かこういう農村には必ず一軒は鍛冶屋がいる物ではないのか。
農具を作ったり直したりする人がいないと農民は困る。
「ええ、いないのよ…。いなくなってしまった…と言った方が正しいかしら…」
その時、俺はマリエルの顔に影が差したのに気が付いた。
何かあったのだ。
「何かあったの?」
俺は単刀直入に尋ねた。
いや、現代日本であればこういう場合、あまり踏み込んでは失礼だが、ここは異世界。
しかも俺は当分この村でお世話になるであろう身の上、他人事ではないのだ。
それに俺は今、この世界の事情を少しでも多く知らねばならない。
遠慮とか配慮という物は余裕があって初めてする物だ。
「そうね。いずれ分かる事だもの、話しておかないとね…」
そうしてマリエルの口から語られたのは、とんでもない事実だった。
なんと、この村には青年層から中年層、つまり働き盛りの男性が全くいないのだという。
どうしてそんな事になっているのかというと、この村を支配している領主が労働力として皆つれて行ってしまったのだそうだ。
この領主、元々この地方一帯を治めていた領主の家来の一人だったのだが、兵士達を指揮する立場にあったのを良い事に武力によって主人を追放して領主の座に就いた。
いわば下克上で成り上がった戦国大名みたいなヤツだ。
「そんなの不当な手段で手に入れた地位じゃないか!中央政府は何も言わないのかい!?」
「言わないわ。そもそもこの国には今、王様がいないんだもの」
「国王不在!?」
「ええ。先代の王様が亡くなった後、後継者の座を巡って二人の王子が争い始めたの。国を真っ二つに分けた戦いの結果、長男が勝った。彼は負けた次男と次男に味方した貴族達を全員処刑して領地を没収したわ」
「なんだ、けっきょく国は長男に相続された訳か…それにしては流された血が多すぎたね」
「そうね。ところが国王の座に就いた長男も、たったの数ヶ月で戦いの時に受けた傷が元で死んでしまったの。彼は世継ぎを残さなかった。完全に王家が途絶えてしまった訳」
「そういう事だったのか…」
現在、国政は王家の遠縁や有力な貴族達の合議制によって行われているという。
その中から新たな国王を出せば良いんじゃないかという話もあるが、貴族達は互いに牽制し合っていて、他に抜きんでようとする者の存在を許さない。
中央がそんな調子じゃあ、地方でこんな無法がまかり通るのも納得がいく。
領主は農業よりも利益の上がる鉱業に執心しており、村の男達は危険な鉱山で日々、過酷な労働に従事させられているという。
領民達にとっては幸か不幸か、ここらの地下には鉱脈があるようで、金、銀、銅、鉄が採れるという。
マリエルには父と兄がいたが、二人もやはり鉱山に連れて行かれ、父親は落盤で死んだ。
未熟な掘削技術で崩落事故は日常茶飯事。
労働者の人権などという概念すら無い社会だ。
領主にとっては領民が何人死のうが利益さえ上がればそれで良い。
一方、働き手を根こそぎ連れて行かれた農村は労働力不足で生産力低下。
そこに重税が課され、やっと収穫した作物もガッポリ持って行かれる。
領民を人間扱いしなくとも、せめて自分の大切な財産と思えば、ここまで惨い事はしない物を…しょせんは他人から盗み取った“物”なのだ。
「許せないヤツだな!みんなで力を合わせて倒そうとは思わないのかい!?」
話を聞いた俺は激しく憤った。
「そんなの無理よ。領主は要塞みたいな城館の中で外出の時も常に兵士達に守られてるのよ。私達が勝てる訳無いわ…」
「鉱山で働かされている男達と密かに連絡を取り合って、日を決めて一斉に蜂起するんだ!数はこっちの方が上なんだろう?」
「相手は訓練を積んだ軍隊よ。私達には武器も無い。あったとしてもクワかツルハシしか持った事の無い農民じゃあ兵士には勝てないわ…」
「そんな…」
どうしようも無い状態とは正にこの事。
実に悔しいものだ。
こんな酷い事が平然と行われていて、それを正す事も出来ないというのは…。

「ただいまぁ〜」
そんな事を話していたら急に扉が開いて誰かが家の中に入って来た。
少し驚いて扉の方を見ると、どことなくマリエルに似た妙齢の女性が木の実やキノコの入ったカゴを手に立っていた。
マリエルよりも淡い栗色の髪を後頭部でまとめ、瞳は同じ緑色。
おっとりした雰囲気の美しい女性だ。
彼女は俺を見て言った。
「あら、お目覚めになられたんですのね。マリエルの母のクリスティーナです。ちょっと待っててくださいね。今、森から採ってきたキノコのスープを作りますから」
「あぁ、これはどうも…」
俺はクリスティーナさんに頭を下げた。
見た目だけではなく口調も落ち着いた感じの大人の女性だ(マリエルくらいの娘がいるんだから当然か)。
「ママ、この人、記憶喪失なんですって」
「あら、じゃあ何も覚えてないの?」
「ええ、まぁ…」
「名前が無いんじゃ呼びにくいわね…そうだわ。ハルトさんとお呼びして良いかしら」

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