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メロン・ワールド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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メロン・ワールド 83

その渡り廊下の両側は、草や木の手入れされた庭園である。その向こうは高い壁になっていて外は見えない。さすがに領主の屋敷だけあって、防御がしっかりしているようだ。
そして、表屋敷の中に入る。ここからは、面識のない人にも大勢会うことになるはずだ。貝丞は少し緊張した。
屋敷の廊下や階段を歩いて行き、やや大きめの、両開きの扉の前に着く。2人のメイドがそれを開いた。
扉の中は、学校の教室ぐらいの広さがある部屋だった。両脇には十数名の老若男女が整列している。彼らは一斉に会釈をして挨拶した。

「「「おはようございます、伯爵」」」

どうやら、ラグーナはここでは伯爵と呼ばれているらしい。そして、並んでいるのは彼女の家臣達なのだろう。
ラグーナは、家臣達を見回して言った。

「おはよう、みんな。今日は新しい使用人を紹介するわ。貝丞!」

貴族らしく、呼び捨てにするラグーナ。貝丞はすぐに調子を合わせた。

「はっ」

返事をして前に出る。

「今日から、私の直属の家臣になった貝丞よ。彼への命令は私が直々に下すわ」
「「!!」」

背後のすぐ近くで、不穏な気配が巻き起こるのを貝丞は感じた。おそらくミュラやイルジーマが、ラグーナの発言に反応したのだろう。それを知ってか知らずか、ラグーナは言葉を続ける。

「闘技場で見た人もいるでしょうけど、武芸の腕前はミュラに勝るとも劣らないわ。遠い国からやって来たみたいで、まだここの習慣に慣れていないところもあるのだけれど、みんな教えてあげてちょうだいね」
「「「かしこまりました、伯爵」」」

ラグーナの言葉に応える家臣達。貝丞が異世界から来たことは、とりあえずまだ伏せておく、といったところか。
続いてラグーナが手で促す仕草をしたので、貝丞は挨拶をすることにした。一礼した後、異国っぽさを出すために胸の前で右の拳を左手で包むポーズをする。前にドラマで見た三国志の真似だ。

「皆様、お初にお目にかかります。ただいま御紹介に預かりました、玉波貝丞と申します。流浪の身で行く当てもないところを伯爵に拾っていただき、本日よりお仕えすることとなりました。若輩者につき、先輩方にはご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、なにとぞよろしくお願いいたします」

「よろしく、貝丞殿」
「歓迎いたしますぞ」
「先日の試合、見ていましたよ」

――よかった。第一印象はそこまで悪くないみたいだ。

「ありがとうございます」と言ってまた頭を下げてから、貝丞は後ろに引き下がる。

その後は、家臣達によるラグーナへの報告だった。言葉の問題もあり、貝丞には内容がよく分からなかったが、町の市場の様子だとか、住民が納める税金のことだとかを担当者が順番に話しているらしい。どれも差し迫った雰囲気のものはなく、定例の報告という感じだった。

「みんな御苦労様。下がっていいわよ」
「「「失礼いたします、伯爵」」」

ラグーナに言われて家臣達が退出していく。最後の1人が出てドアが閉まった瞬間、ミュラとイルジーマが怒声を張り上げた。

「話が違うじゃない!!」
「そうですよ! なんでラグーナ様だけ御主人様に命令できるんですか!?」
「えーでも、領主付きの警備担当の小間使いなんて肩書き、よく考えたらやっぱりおかしくない?」

このタイミングでそれを蒸し返すか。貝丞は戦慄した。

「だからね、要らないところはばっさり仕分けして“領主付き”だけにしてみたんだけど、どうかしら?」
「どうかしら、じゃないよ! 元に戻して!!」
「そうです! ラグーナ様は職権を濫用し過ぎです!」

暴君と化したラグーナに意見するミュラとイルジーマ。だが言われた方も黙ってはいない。

「口を慎みなさい! 領主が家臣の処遇を決めて何が悪いの!?」
「「何!?」」

今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな、険悪な空気である。貝丞は慌てて仲裁を試みた。

「まあまあ、ここは公共の場所だし、一つ穏便に……」
「「「御主人様は黙ってて!!」」」
「ひいい!」

これではたまらない。怒鳴り付けられた貝丞はその場から逃げ出した。たった今家臣達が出て行った扉を抜けて外に出る。

「ふう……」

情けないが、こうなってはしばらく時間を置くしかないだろう。その間、この表屋敷の中を探索してみるのも悪くはない。貝丞は廊下を歩き始めた。
彼が探したかったのは、書物の類が置いてある部屋である。この世界に来てからまだ本を見たことはないが、文字はあるし、紙幣があるから紙に印刷する技術もある。本がないはずかないのだ。
とは言え、誰がどこでどんな仕事をしているか分からない以上、やたらと部屋の扉を開けて歩くのも非常識というものだろう。最初のうちは、屋敷の間取りを把握するぐらいか。
そう思いながら廊下を進んでいると、反対側から若い女性が歩いてきた。先程広間にいた家臣の一人だ。

「あら、貝丞君じゃないの」
「あ……先程はどうも……えーと……」
「メイリーンよ。ラグーナ様の秘書をしているわ」

メイリーンと名乗るその女性は、貝丞より15センチほど背が高かった。赤毛にドレス姿で、眼鏡をかけている。
彼女は貝丞の顔を覗き込み、心配そうに尋ねてきた。

「もしかして、屋敷の中で迷っちゃってるのかしら?」
「いやその、迷っていると言いますか……それ以前に屋敷の中が全然分かっていなくて……」

貝丞が頭をかくと、メイリーンはにっこり笑って言った。

「なんだそうだったの。だったら、私が屋敷を案内してあげるわ」
「ほ、本当ですか? ぜひお願いします!」

願ってもない話である。貝丞は素直に好意に甘えることにした。
メイリーンの後に続き、屋敷の中を回る。

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