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メロン・ワールド
官能リレー小説 - ファンタジー系

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メロン・ワールド 14

今更ながら他人の心配をしている場合でないことに貝丞は気付いた。
もちろんいざとなれば再交付を受けずともユーラシア大陸を徒歩で横断し、対馬海峡を泳いで渡る程度の覚悟は貝丞にある。
だが未だに自分のいる場所が分からないことが貝丞の心に影を落としていた。
せめてここがどこか分かれば多少でも安心できるのだが。
一方ミュラとレフェリーは話しながら貝丞の方にちらちらと視線を送ってきていた。やはり何か貝丞に関することを話しているらしい。
――もしかしてもうすでに不審な外国人だと思われているのだろうか?
事情はどうあれ、この国から見たら自分は密入国者なのだ。
それがばれたら逮捕拘禁されるかも知れない。日本に強制送還してくれるなら、例え前科が付いても感謝感激雨アラレだ。だがこの国の法律次第では刑務所に入れられることも有り得るし、まかり間違えばスパイ容疑で銃殺という可能性もないではない。
なにしろ今の自分は身元を証明するものを何一つ持っていないのだ。
湧き上がってくる恐怖感に貝丞は下を向いた。試合をしたときよりも大量の汗がダラダラ流れ落ちる。
――逃げるか?
貝丞はこのままダッシュで逃走しようかと考えた。だ
がそうすれば周りの人間が貝丞を押さえようとするだろう。
果たしてこれだけの観客の中を取り押さえられずに逃げ切ることが可能だろうか。
俯いてそこまで考えた時、突然観客から凄まじい歓声が起こった。思わず貝丞はその場にひっくり返ってしまう。
――何だ一体!?
レフェリーが寄ってきて貝丞に立ち上がるよう促した。言われるままに立ち上がると今度は腕を引っ張られた。連れて行かれたのちょうどミュラと向かい合う位置である。
1メートルと離れてはいなかった。
――何をやらせる気だ・・・?
とりあえず取り押さえられる気配はない。少しだけ勇気を得た貝丞は至近距離からミュラの口元を見上げた。
無気味な笑みが浮かんでいる。褐色の肌のためよく分からないが、顔が上気しているようだ。気持ち呼吸も荒い気がする。
――具合でも悪いのかな?
だが次の瞬間、二人の間に立ったレフェリーが「ミュラ○×!!」と大声でコールした。(○×は貝丞には聞き取れなかった)
続いて「カイスケ!!」とコールされる。二人の名が呼ばれるたびに観客が沸く。
――え?まさか!?
こうなるとさすがに貝丞でも状況が理解できた。要するにこのミュラという女性は格闘家で、これから自分と戦うということなのだ。
――冗談じゃないぞ。何が悲しくてこんなところまで来て女の人と戦わなくちゃいけないんだ!?
とりあえず不審がられているわけではないと分かって安心した貝丞だったが、この事態はこの事態で驚愕し、かつ困惑した。
もちろんミュラが弱いとは思えない。戦うところは見ていないが、観客の反応から考えて相当な実力を持っているのだろう。
だがそれとこれとはまた別の問題である。

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