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淫屍術師<投稿自由です>
官能リレー小説 - ファンタジー系

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淫屍術師<投稿自由です> 6

驚くこの男くらいに強くなれば、泣きじゃくる弟のように屍を消滅させないでおくことも可能だが・・・。
それにはやはり何人、いや何十人もの屍を食べていなければならない。
なぜなら屍食いの力は能力や才能ではなく・・・人間を超えた先にある『生態』だからだ。
ゆえに目の前の少年が、屍を食い殺さなかったことは本来ありえるはずのないことなのである。
驚くのも無理はない。
だがその起こらないはずの出来事が起きてしまった、この奇跡。
それは果たして善いことであるのか、悪いことであるのか。
男は時間にしてほんの少しだけ迷った。
それは人間を超えた存在となったモノの警鐘だったのかもしれない。
しかし人間の価値観を持つその男は、目の前の奇跡を前にこう思った。
すなわち―――。

(コイツ・・・おもしれえ・・・ッ!!)

と。そして男は好奇心の命ずるまま、行動を開始した。

「おいガキ。ずいぶんとお涙ちょうだいな展開に喜んでいるみてえだが・・・いいのか?
 おまえはもう屍食いなんだぞ?いつまでもくだらねえヒューマニズム引きずってる場合じゃねえ。
 せっかく助かった命をドブに捨てるつもりか?」
「・・・・・・っ!?で、でもっ・・・!」

遠回しにこのままでは死ぬと言われ、怯える少年。
当たり前だ。誰だって死ぬのは嫌だ。それもつい先ほどまで死にそうな目に遭っているならなおさら。
しかしエサとしてよこされた屍の少女は、自分の村の女の子・・・つまり顔見知りなわけで。
いくら生きるためとは言え、ついこの間まで仲良くしていた女の子を殺すだなんてできるわけも、またなかった。
もっとも男のほうも、少年がそんなことを言うのは想定内。
男は少年を追い詰めるべく、次の手を打った。
「死にたくねえ。だけどついこの間まで仲良くしていたお友達を殺したくはねえ・・・ってか?
 お優しいこった。まあ、そいつが食えねえってのなら別にいい。
 代わりはいくらでもいるんだからな。・・・何なら、そっちを食うか?」
「・・・・・・っ!?」

酷薄な笑みを浮かべる男が指さすのは・・・状況を理解していないのか、きょとんとした表情で弟と男を見つめる姉。
一番助けたい相手を殺せと言われ。少年は今度こそ絶句した。
そこに容赦なく男は追撃をかける。

「まあ食う食わないは、おまえの勝手だがな。・・・でも、つれぇぞ?何も飲まず食わずにいるってのはな。
 まして今のおまえらは人間じゃなく、屍食いだ。意識のある今のうちに食っておいたほうが幸せかもしれねえぞ?」
「ど・・・どういうこと、ですか・・・?」
「おまえらの身体は、今ものすごい勢いで人間の身体から屍食いのそれへと変化している。
 そのためには莫大なエネルギーってもんが必要になるんだよ。
 わかりやすく言えば、すげえ腹の減る状態になるから、何でもいいから食いたくなるってことだな」

そこでいったん言葉を切り、少年が何かを考える時間を与える。
安易な希望を持たせて、そこから絶望の淵へ落とし込むために。

「おっと、そんなもん我慢すればいいなんて甘い考えは捨てとけよ?
 オレが言う腹ペコ状態はガマンなんてできるシロモノなんかじゃねえ。
 断言してやる。もしそうなったら、おまえは友達だろうが家族だろうが、お構いなしに食い殺すってな」
「・・・・・・!!」
「そしてそれはおまえだけじゃない。そこの嬢ちゃんもだ。
 見た感じ、嬢ちゃんはおまえより人間らしさが薄いようだからな。
 ・・・腹が減ったら、すぐに誰か食っちまうことだろうぜ?」
「・・・っ!?・・・・・・!・・・・・・っ!!」

食われるのはおまえかもしれない。
暗にそう言われたと理解した少年は目の前が真っ暗になったような気がした。
だが男が言わんとしていることはもっと非情で残酷だった。
どっちかが加害者・被害者になれるのならまだいいほうなのだ。
2人とも飢餓状態に陥った場合、お互いがお互いをエサと認識して殺し合いを始める可能性がある。
最悪それだけでは治まらず、村のゾンビたち・・・いや通りすがりの人間すら手にかける恐れすらあるのだ。
これを悲劇と言わず、何と言えばいいのか。
必死に悲劇を避ける方法を考える少年。しかしそんな都合のいいモノなどありはしない。
人間だったころでさえ、植物や動物の命を奪って糧としてきたのだから。
瞳から急激に光を失っていく少年の様子に、満足げな笑みを浮かべる男は頃合い良しとばかりに救いの手を差し伸べる。
地獄に垂れ下げられた、か細い蜘蛛の糸のような救いの手を。

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