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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 228

しかし、
「ぐぅっ!」
斬り掛かったリグールの方が、肩から血を噴出して止まる。
「リグール、私はな、ずっと、ずっと、あの日から、お前が消えたあの日から、ずっとお前と戦いたかった。」
「クリス…」
「何度も何度も頭の中でお前と戦ってきた。あらゆる予想を立ててある。」
「な、なんとぉー!クリシーヌ選手の剣が当たっていた!?」
「あれはうちの秘剣だよ。秘剣だから教えてあげなーい♪」
「あ、あれね、闘魔無影剣ってやつ。剣に走らせた剣気で相手を切るから影の無い剣なんだって。ちなみにジュダは体得出来なかったらしいよ。」
「おまっ!ふざけんな!全ヴェルナードを代表して殴る!」
肩の傷から手を離して、リグールは剣を構え直す。
「…こんなかすり傷で勝ったと思われては困る。ここからが本番だ!」
「ふふっ、そうでなくては!」
闘技場の中が狭いと感じる程に、双方の剣が至る所でぶつかる。表情を変えず、一切の汚れも無いクリスに対して、リグールの戦い方は無様だった。砂にまみれて剣を避け、剣の刀身だけでなく、鍔、柄、己の全身を使って攻勢に出る。それが、かえって格好よく見えた。
「うおおおっ!」
「ぬっ!?」
ガギンッ!
リグール渾身の一撃は、クリスの身体を剣ごと弾き飛ばした。
「うん、いいねリグール君!」
「綺麗な戦い方ではないが、決してクリス君に負けてないぞ!」
事実、クリスは攻めあぐねいていた。防御に関しては自分より上手、それを知っている上で、圧倒的な攻めから勝機を見出だすはずだった。
「さすがだよ、リグール。ここまでとは。」
一方、肩で息をするリグールは、納得のいった様子で剣を捨てた。
「はぁ、はぁ、答えは出た。クリス、やはり剣でお前には勝てん。このままいけば負けるのは俺だろう。だが、俺は絶対に負けられん。」
「リグール選手!剣を捨てたー!これは一体!」
「見せてやる、クリス。竜を狩る一族の力を。」
金色の瞳が、さらに変化する。人の目が、竜の瞳へと形を変えた。
「これは…リグール、お前は…」
「剛竜の吐息は全てを灰塵に還し、飛竜の鱗は万物でも傷一つ付けられない。そして、」
「剣竜の爪は、あらゆる刃を凌駕する。」
次の瞬間、クリスの眼前からリグールが消えた。
「俺は、剣竜の力を濃く受け継いだ。」
背後からリグールの声がして、同時に首筋に悪寒が走る。それが自身の危険と察知したクリスは、振り向かずに前方へ転がった。直後、自分の居た場所に、巨大な爪痕が刻み込まれたのを見て、驚愕の表情を浮かべる。
「ここからが、本当の俺とお前の戦いだ。」
地面を切り裂いた両手の五指を大きく広げて、リグールは構えた。
「勿体振りおって。私も本気でいかせてもらうぞ!リグール!」
再び、両者は激突した。一撃、一撃が凄まじい衝撃を放ち、魔法障壁が震える。
「またパワーアップしちゃったね彼等…」
「弱いおっさん達が解説とか何様、みたいな気分になってきちゃった…」
何が起きてるかわからない戦いに、解説の二人は落ち込んできてしまった。
「グルルル…」
「お父様、凄い戦いになってきましたね。」
食い入るように見ている獅子王に、白虎王は嬉しそうに微笑んだ。
「グルルル…白虎は呑気だのぅ。奴等、二人がかりなら、ワシを含めた各界の王と互角にもってけるかもしれん。そんな奴等が人界に居ると他の王に知れたら…」
「これはこれは獅子王様、よくお分かりで。」
獅子王の話を遮るように、後ろの鬼族が話し掛けた。
「貴方は?」
振り返った白虎王の手を、禿げ上がった頭に鼠のような面持ちの男が両手で取った。
「うひゃ〜、これはこれは白虎王殿、素晴らしき美貌でござるな!どうでしょう、今宵は某と…」
言い終わる前に、獅子王の戟が男の両腕に振り下ろされる。男は、素早く取り出した棍棒でそれを受け流した。戟は地面を打ち砕き、周囲の観客は慌てて距離をとる。
「ひゃ〜、相変わらずの馬鹿力と短気でございますなぁ。」
「グルルル…貴様、オダの小僧の草履取り。何故ここにいる、小猿が。」
「いえね、イマガワのヨシモトが三万とも五万とも言われる大軍を率いて上洛する。なんて情報が入ってきましてね。織田の領内はてんやわんやで。」
「ならば、こんなとこで油を売っておらず戦の支度をすればよかろう。目障りだ。」
「それが、人界を経由する。って情報もありましてね。」
「ヨシモト殿とは?」
「鬼界でもかなりの実力者でございます。我らの世界は戦国乱世、我らオダの領地とイマガワの領地は隣接しておりまして小競り合いが続いていたのですが。」
「それが、何故いきなり軍を率いて人界へ…」
「なにやら、手引きをしている人間がいる、と。」
「人間の中に…。しかし、人界への侵攻は出来ないはずです。約定が」
「いえいえ、我らの世界は子が親さえ殺す下克上の乱世。約束事なんぞあってないような代物。」
「そんな…」
「それで、御館様がこの戦いに大変興味を持たれましてね。人間でも使える。と。拙者はオダの使者として参った次第で。へへへ、」
「敵の敵は味方、って事ですか。」
「えぇ、しかし人界の王は美しい。惚れ惚れしますなぁ。」
「グルルル…耳障りだ。消えろ小猿が。」
「うひゃ〜、こわいこわい。退散退散。」
獅子王が眼光鋭く睨み付けると、男は笑いながらその場を離れた。
「また戦になるのでしょうか…。」
「白虎、お前はあの男に仕えているんだ。しっかりと、務めを果たしなさい。」それは、リグールを認めた獅子王の言葉だった。
「…はい!」

「おおおおっ!」
「はあああっ!」
互いに譲らない両者。勝負は互角のまま一進一退で続いていた。自分こそが最強、それを証明するためにクリスの剣とリグールの刃が幾度となく交錯する。

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