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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 229

「まさかこれほどの闘いになるとは思わなかった。」「我輩も。」
「凄まじい攻防が続いていますが…」
パキンッ!
乾いた音がして、ギョッとした二人が音の方を見る。強固な魔法障壁に亀裂が走り、限界を迎えようとしていた。
「や、やばいぞ…」
「闘技場が吹き飛んでしまう!皆!逃げろ!」
ジュスガーの拡声器を奪い、ジュダが叫ぶ。しかし、観客は誰も動こうとしない。
「…まぁ、そうだろうな。この決着を見逃したら一生後悔する。」
「我輩達も諦めるか。」
椅子に座り直して、毅然とした態度で腕を組む二人の膝が、ガタガタと震えている事をジュスガーは敢えて触れなかった。
「くぅっ!」
「チィッ!」
互いの渾身の一撃は、凄まじい衝撃を放って両者を弾き飛ばした。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「はぁ、ふぅぅ、もう体力も限界らしい。次で決める。」
「はぁ、はぁ、奇遇だな。私も同じ事を考えていた。」
「勝つのは、俺だ!」
「貴様には負けん!」
剣を高々と掲げるように構えて、クリスは重心を落とす。
「行くぞクリス!」
右手の五指に力を集束させて、リグールは地を蹴った。
「来い!リグール!」
腕を振りかぶり、一直線に迫るリグール。一方、クリスは昂る気を落ち着かせるために目を閉じた。
「多分、この瞬間のために、私は剣の腕を磨いてきたのだ。全身全霊の剣を受けよ!」
目を見開いた眼前で、リグールは黄金色の突きを放つ。
「おおおおっ!」
「はぁあああっ!」
クリスは、剣に捧げた全てを込めて、両手を振り下ろした。
二人の刃が交錯して、凄まじい衝撃と共に眩い光が放たれた。
静まりかえる会場。剣を振り下ろしたままのクリスと、突きの体勢のままのリグールがいた。互いに背中を向けて、微動だにしない。「ゴクッ…」
ジュダが喉を鳴らして固唾を飲み込むと、魔法障壁がパラパラと砕け始めた。
「くぅっ!」
肩から血を噴き出して、クリスが膝をつく。
「…見事だ、クリス。全く以て見事。」
ダラリと腕を下ろして、リグールが振り返る。そして、
「悔いは無い。俺は全力で、お前に負けた。」
胸から血を噴き出して、リグールは大の字に倒れたのだった。

「…決着…決着っ!決着ぅぅぅうぅぅうう!大陸最強は、クリシーヌ・ヴェルナードォォオオ!!」
静まり返った会場の中、ジュスガーは拡声器を持って叫んだ。続いて、観客席から地鳴りのような歓声が上がる。
クリスは立ち上がり、リグールを見た。晴れ晴れとした表情で、空を見つめてる。
「リグール、お前が心臓を狙っていたら…」
リグールの黄金の突きが、自分の急所を外していた事を、クリスは理解していた。
「…だが、だかな!」
ガバッと起き上がったリグールが、血の溢れる胸を押さえて立ち上がった。
「俺はまだ死んでいない!いずれは勝つ!勝つまでは負けてやる!」
血だらけの指を指して、リグールは走って逃げ出した。それをポカンと見ていたクリスが、クスッと笑う。
「いい顔が戻ってきたじゃないかリグール。私も、まだまだ修行が足りないらしいな。」
そして、傷の手当てが終わると、すぐに授賞式が行われた。国王直々に、最強の騎士クリシーヌ・ヴェルナードの頭へ冠が与えられる。
「かっこよかったよクリスさん♪」
「有り難き幸せ。」
「でもリグールの方がかっこよかったけど♪」
「ふふ、そうですね。」
「もう!敬語はやめてよ!」
膨れっ面のサーシャを見て、にこやかに微笑んでいるクリスに、実行委員長のジュダから賞金が渡された。
「我が娘、よくやってくれた。お前はワシの誇りだよ。」
「ありがとうございます。あの、父上?」
「なんだね?」
「手の力を、抜いていただけませんか?」
余程、賞金を渡したくないのか、金額の書かれた目録を震える程に掴んでいる。「我が国は、財政がとにかく厳しい…。後生だ、クリシーヌ…、少ないがお小遣いならワシからあげるから…」
「ふんっ!」
「あ、あぁ〜…」
クリスは、目録を父親の手からふんだくるように奪って、高く掲げた。
「私の金だ!」
「く、クリシーヌぅ〜…」涙目で拝む父親を尻目に、サーシャへ歩み寄る。
「サーシャ、お前のために、友として私が出来る事なら、何でもしてやりたい。」
「え?やんっ!でも」
「私の金だ。好きに使わせて欲しい。」
無造作に目録を胸に押し付けると、クリスは銀髪を靡かせて振り返る。
「では、また。」
そして、颯爽と入場口へ向かった。
「大陸最強決定トーナメントの勝者、クリシーヌ・ヴェルナードに、もう一度、盛大な拍手ー!」

大陸の北、最果ての森
大樹が生い茂り、陽射しの射し込まない暗い森の中を、レイラは進んでいた。
「あーだる。ここは当たりだと思ったんだけど…」
辺りを見渡して見ても、目当ての物は見当たらない。
「どんな結界でも、繋ぎ目があるはずなんだけどなぁ。」
陽射しの入る拓けた場所を見つけて、横たわった巨木に腰を掛ける。
「はぁ〜、しんどい。いっそ一帯を焼き払って………誰?」
独り言を呟いていると、不意に目の前の茂みが揺れた。
「出てらっしゃい♪何もしないから♪」
茂みから現れた者を見て、レイラは思った。金色の髪と瞳に褐色の肌、一糸も纏わない子供が、おずおずとこちらを見ている。やはりここは当たりだ。
「…どこから来たの?」
「外からよ♪」
「人間じゃないの?魔族?」
「あらら、よくわかったわね。身体は人間だから、一応は人間なんだけど。この辺りに住んでるの?」
「それを知ってどうするの?」
可愛く首を傾げて、問い返す少女を見て、レイラは笑った。
「秘密よ♪」
「じゃ、生かして帰せないね。アイツは死んだ?魔王。」
「は?何を言ってるのかしら?」

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