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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 222

慈悲の欠片も無いような視線で、真っ直ぐにテテュスを見る。
「にげ、なさ、い…貴女、まで、犬死、には…」
「逃げません!ヴェイル様を見棄てて逃げるくらいなら私も…」
「結構。仲良く死になさい。」
強化された脚力で、地面を蹴るジン。突き出した右腕に纏われた魔力は剣よりも鋭利な刃物に変わる。
死を覚悟したテテュスがヴェイルを守るように抱き着くと、脇をすり抜け二つの影がジンに向かっていった。
ガギィンッ!
金属音と共に長い銀髪が風に靡く。右腕を剣で受けたクリスと、首に添えられた剣で自分の動きを制するリグールだった。
「クリス、リグール、私の邪魔をしますか。」
「バカモノめ、頭に血が昇りすぎだ。ここまでする事は無いだろうに。」
呆れた様子で剣を鞘に納め、ヴェイルを見る。
「…コイツを殺せばお前は失格だ。俺との決着はどうする?」
殺気の塊のようなジンを宥めるように言うと、リグールも剣を納めた。
「決着…ですか。私は棄権しましょう。」
ニッコリと笑い、ジンは入場口へ向かう。
「おぃ、ジン、」
「わかってるんです。私は、リグールとクリスには勝てませんから♪」
それは、ジンの本音だった。
「ふぅ…」
一息をついてジュダが椅子に深く座る。
「あ、あの〜、ジン選手は、棄権、って事でよろしいんですかね?」
「息子がそう言うんだからそれでいいよ。うん。」
リクも珍しく真剣な顔でジンの後ろ姿を見ていた。
「ヴェルナルド・シルヴァ選手の、勝利です…」
勝者が告げられても、観客からの歓声は全くと言ってもよい程に無かった。誰が見ても明らかな敗者が勝者と告げられても、観客は飲み込めない。
「(くく、くくく、なんて様だ。全く相手にならず、テテュスに庇われ、義理も無い者に助けられ、ピエロもいいとこだ…)」
涙を浮かべながら切り刻まれた自分の手足を修復するテテュスが、痛々しく見えた。
「(強く、ならねば…)」
それからすぐに医務室へ運ばれ、ジュスガーの口からヴェルナルド・シルヴァの棄権が告げられた。
「さぁて、気を取り直して一回戦最高カード!第五試合を始めます!」
「うむうむ。」
「はんはん。」
「はんはんって何だ。」
「いちいち食い付くなよな〜。本当めんどくさい奴だな〜。」
「お前が訳わからん事言うからだろ!思考回路ショート寸前だろお前!」
「あ〜うるさいうるさい。12歳まで寝小便してた奴は本当にうるさい。」
「ちょっ!おまえっ!マジでやめろよ!俺、元剣聖なんだぞ!お前だって」
「あーはいはいはい、ジュスガー君よろしく〜!」
「…はぁ、東門より、アリシス・シルヴァ選手の…アリシス・シルヴァ選手の入場!」
人界で最高峰の対戦カードに燃えていたジュスガーだったが、二人のやり取りに一気に萎えた。が、アリシスの姿を見てやっぱり燃えた。
ワァアアアッ!
「んまっ…んーまっ…」
観客の声援に投げキッスで応えるアリシス。クリスとの対戦で、機嫌も最高に良いらしい。
「続いて、剣聖!クリシーヌ・ヴェルナード!」
ワァアアアッ!
「………」
観客には目もくれず、アリシスだけを真っ直ぐ見つめながら、クリスは中央へ進む。
「クリスぅ…♪私ね…今…最っ高ぉ…なんだよ…♪」
ゾクゾクと身体を震わせ身悶えしているアリシスを見て、クリスは微笑んだ。
「奇遇だな。私もだよアリシス。」
「勝つ…本気で…勝つんだから…♪」
「わかっている。いい勝負をしよう。」
妖艶な笑みで口元に指を添えたアリシスに、観客の男達は生唾を飲み込み喉を鳴らした。
「さて、ジュダ様とリク様、お二人をどう見ますか?」
「そうだねぇ。難しいとこだが、我輩の予想ではクリス君かな。どっかの元剣聖より百倍強いだろうし。」
「だが、アリシス君には特異体質の瞳がある。それがどう影響するかだな。な?初体験の時にパンツを脱いだ時の刺激で射精してしまったリク・ローファル、略してパンズリのリクよ。」
「は、は、はぁーっ!?おまっ!何言って!我輩には今も現役で我輩を尊敬して働く従業員50人がいるんだぞ!しかも変に略しやがって!あーもうっ!あー許せんっ!マジで決着つけてやる!」
「望むところだ!表に出ろっ!こんにゃろ!このっ!このっ!」
「このっ!ふざけんな!こんにゃろ!絶対に許さんぞ!」
掴み合って退場していく二人を見送り、やっと肩の荷が下りたと言わんばかりのジュスガーの表情は、とても晴れやかだった。
「参りましょう!試合…開始っ!」
おもむろに立ち上がり机に片足を乗せたジュスガーが、合図を送る。ゴングが鳴った。
「あは…♪」
フワリと宙に舞い上がったアリシスが、腰の双剣を逆手に握り空中で身を屈ませる。
「…よーい…ドンッ…!」掛け声に合わせて空中を蹴りクリスへ迫る。双剣を交差して斬りかかるアリシスに対し、クリスは両手で剣を構えて腰を沈めた。
「ふんっ!」
ガキンッ!
斬り上げるように受けたクリスの刃を止めて、アリシスは後方に宙返りして地に伏せるように着地した。
「相変わらず読めん動きだな。空まで足場にするとは。」
「んふ…♪ニンニン…♪」顔の前で人差し指と中指を立て、アリシスが魔力を練り上げる。
「こ、こ、これは!アリシス選手が5人!」
クリスを四方から囲むように、アリシスの分身が現れた。
「ほぅ、幻…ではないようだな。」
「…かかれーぃ…♪」
四方から一斉に斬りかかるアリシスの分身。
「おっ、やってるやってる。」
「アリシス君が5人もいるじゃないか。」
「ジュダ様、リク様、」
戻ってきた二人は、ボロボロで顔に青タンが出来ていた。

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