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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 220

「クリスの屋敷か。どれくらい寝ていた?」
二人の方へ視線を向けると、アリシスが拳を振りかぶっていた。
「うるさーい…!」
ドゴッ!
さすがのリグールも、昏睡状態から目覚めたばかりではアリシスの一撃を避ける事は出来なかった。
「…なぜだ?」
両方の鼻の穴から鼻血を垂らしながらジンへ顔を向ける。
「まぁ、心配掛けやがってって事でしょう。やれやれです。」
嬉しそうに笑いながら、ジンは続ける。
「ありがとうリグール、貴方がクリスとアリシスに加勢を頼んだらしいですね。」
「別に。俺だけじゃどうにもならんと白虎王に言われたからだ。」
「その白虎様…まだサーシャの警護…してるって…律儀…」
「心配してるでしょうねきっと。」
「そんな事はどうでもいい。考えてくれたか?」
「ん?何がです?」
「力になって欲しい。」
「今更、何を言うんですか貴方は。答えは決まっ…」
「そーそー…!決まりました…我らが組織の名称…!ババーン…!」
「なんだそれは。別に必要ないだろ…う!」
リグールの口にガーゼを押し込みながらアリシスはニッコリ笑う。
「狂ってる私達は…『狂』でーす…♪異論がある人は…挙手…♪」
「そのまんまですねぇ。それに、先に決まりましたって自分で言っといて異論があれば挙手ですか。」
「うぐ、ぐっ、ぐっ、」
「はい…メンバー全員一致で…決まりでーす…♪」
「ゲホッ、ゲホッ、」
「相変わらずの力業ですね。」
「んふふ〜…♪私達で…国を変えるのだ…♪リーダーは…名付け親のわた…」
「サーシャだ。」
「えぇ、サーシャ様ですね。これは最初から決定事項です。」
「………」
上機嫌から一転、じと目でジンを睨むアリシス。
「文句があればサーシャ様に。」
「卑怯…。もういい…サーシャに優しく…してもらうから…ららばい…」
アリシスは立ち上がって窓を開け、そこから飛び降りた。
「自由人ですねぇ。」
「そうだな。」
「…リグール、改めてお礼を…」
「要らん。」
「ふふ、そうですよね。貴方はそういう人だ。」
「あぁ、要らん。…彼女は?」
「マリーですか?無事ですよ。」
「そうか。」
「貴方にも何度もお礼を言ってま…」
「余計な事だ。」
「ふふ、でしょうね。さ、これから忙しくなりますよ。リグールは傷の完治から。」
「三日あれば充分だ。」
「それはさすがに無理でしょう。人知れず世界を救った英雄ですよ貴方は。」
「くだらん。少し寝る。」
「はい、ごゆっくり♪」
………
一年後、廃墟と化した魔導団の兵舎で、ジンは一人の男と対峙していた。
「ローファル!貴様!」
「第6魔導団の団長、テーレスタ・ヨンザ。バルデスの奴隷商に荷担した罪、償って頂きます。」
「貴様、貴様、貴様、なんと惨たらしい事を!皆殺しとは!」
「私は、命に価値を付けた。生きるべき者は生かしてある。」
「ぐぐぐっ、神にでもなったつもりか!狂人め!」
「貴方には、妻はいますか?子供は?まぁ、親はいるんでしょうが。」
「い、いる!妻が!娘が!頼む!命だけは助けてくれ!何でもするから!」
「では祈りなさい。貴方の妻が、娘が、奴隷として売られる事がないようにと。」
「こ、こ、殺してやる!貴様を!」
「因果応報。ここまでしているんだ。殺される覚悟はとっくに出来ている。」
そう言い、ジンは男に掌を向けると、静かに握り締めた。
「ぎっぎゃぁあああ!」
男の頭は圧縮され、弾けるように潰れた。
「そう、覚悟は出来ている…。」
修羅となったジンは、星空を見上げて未来を想った。
「(リグール。私は、貴方の子供のために戦いましょう。)」
「ジン様、」
前方の闇から声がして、ジンは微笑む。
「マリー、首尾は?」
「指示通りに。」
重々しい甲冑で身を包み、血塗れの大斧を肩に担いだマリーが頬を紅く染めながら近付く。
「一人で心配でしたが、この一年で本当に強くなりましたね。」
頬を撫で、労うジンに対して、マリーは顔を俯かせた。元々、肉体強化系に特化した魔力の素質があった彼女は、既に、並の騎士では太刀打ち出来ない程の実力者になっていた。 
「さぁ、次です。この騒ぎに乗じてサーシャ様を誘拐しましょう。」
「はい。頑張ります。」
「ふふ、よろしい。」
………
「って夢を見たんだよ!」「はいはい、そうですかそうですか。」
傷の治療を受けながら眠っていたセガルドが、飛び起きるなり鼻息を荒くして看護士に語る。
「いや〜、さすがジンさん。若い頃も只者じゃなかったんだな。」
「頭の治療も必要かしら…」
一人でウンウンと頷くセガルドに、看護士は呆れ顔だった。
「お〜っと!ジンさんの試合だ!観戦しないと!」
「あ、こら、まだヒールの途中!」
上着を羽織り、セガルドは観客席へ向かった。
「な、なんだよコレ…」
会場を見たセガルドが、茫然と声を漏らす。ズタボロ、と言っても過言では無いような姿になったヴェルナルドが、血を吐きながら光の杭で魔法障壁に両手を打ち付けられていた。あまりの凄惨さに、観客席からも悲痛の声が漏れている。
「セ、セガル…」
同じく通路口に立っていたランドが声をかける。
「ランド、何があったんだよ!」
「最初は、魔法合戦だったんだ。ヴェイルさんが放った魔法をジンさんが上回って返す。それをまたヴェイルさんが返して…。見てるだけでも勉強になるようないい試合だった…」
「それが、どうしてこうなる…。」
見た事も無いジンの険しい表情に、セガルドは背筋が凍った。
「それで、少し言葉を交わしたと思ったら…ジンさんが急に…。僕も見ていて怖かった。本当に、本当に一方的だった…。」
ヴェイルは、決して弱くは無い。魔界司法管理軍将軍の地位も実力から手に入れた物だ。それを、簡単に上回る程の実力を、人間のジンは有していた。
「グルルル…」
「お父様、どうなされましたか?」
喉を鳴らした獅子王も、感嘆とした様子で話す。
「あのジンなる者、我が獣界に欲しい。人界には勿体ない。」

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