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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 219

マリーの身体が傀儡人形のように動いた直後、引き摺り出されるかのように、強大な魔力の塊が現れた。それが姿を変え、禍々しい本体と変わっていく。獣の骸骨のような巨大な体躯、頭部に鬼のような角、背中の漆黒の大翼を開き、悪魔の尻尾を地面に叩き付けた。
「さぁ、私の身体へ。」
「止メロ、」
ジンに引き寄せられる身体を足の蹄で堪えながら、周囲の柱を尻尾で薙ぎ倒す。「いや、コイツはこのままその扉に押し込む。それでもいいんだろう?」
ジンと破壊神の間に、傷だらけのリグールが割って入った。
「リグール!確実な方法はこれしかないんです!」
「まだ可能性はある。試してからでも遅くは無い。アリシス。」
「…ん。今の状態なら…ギリ…イケるかも…?クリス…」
「あぁ、リグールに合わせてやるさ。ジン、そこは邪魔になる。」
アリシスの瞳に、紅く力が宿る。『石化の魔眼』それがアリシスの真の力。
力の差から、全身を石化させる事が出来ずとも、確実に動きを鈍らせる事は出来た。
「いくぞ、開け。」
リグールの合図と同時に、ジンは慌てて扉を開く。そこは、自分の望んだ誰も争う事が出来ない、四季の花が咲き乱れる美しい世界だった。
それを合図として、クリスが低い姿勢で敵へと真っ直ぐ距離を詰める。
「オオオオッ!」
咆哮と共に、リグールをズタズタに切り裂いた魔力の刃を放つ破壊神。
「それは一度、見ている。ふんっ!」
怯まずに突っ込んだクリスが、無数の魔力の刃を一薙ぎで斬り開いた。
その後ろで、アリシスが雷の弓矢を構える。
「…ぶち抜く…」
石化の視線を外す事なく、放たれた強力な雷の大矢が敵の胴を貫いた。
「オオッ!」
何かに感づいた破壊神は後ろに腕を振る。背後に回っていたリグールが間一髪で態勢を低くして避けた。
「化け物め、二度と現れるな。」
大量の出血にも関わらず、リグールは剣を構えて床が割れる程の力で地面を蹴った。
リグールの渾身の突きは、咄嗟に顔面の防御をとった破壊神の腕の下から胸に突き刺さり、その威力のまま後方へ押し込んでいく。
「オオオッ!ヤメロ!イヤダ!」
既に身体の半分は異世界に入っている破壊神だが、巨大な扉の両縁を掴み堪えている。破壊神の両手首を、アリシスが素早く斬り落とした。
「グゥッ!」
落としたはずの手首が、ジンとクリスに迫る。眼前で真っ二つに斬り伏せたクリスに対し、ジンは完全に反応が遅れた。
どうせ、捧げるはずの身だった。するべき事は変わらない。目前に迫る鋭利な爪にも怯まず、異世界への扉と目を閉じた。
「…?」
しかし、生きている。
「リグール!」
「リグール…!」
クリスとアリシスの叫ぶ様な声に瞼を開くと、目の前に傷だらけのリグールが立っていた。
「…ジン、頼みがある。お前にしか…ゴブッ…」
言葉の途中で、リグールは大量の血を吐き崩れるように横へ倒れた。背中に肩から脇腹へかけて大きな傷を負っていた。
「リ、リグール…」
「はぁ…はぁ…はぁ…お前に…俺達の絵図を…描いて欲しい…」
「私…に…?」
「どいて…!リグール…いいから…後で聞くから…」
「ジン!何をしている!すぐに回復だ!」
茫然と倒れたリグールを見つめるジンを押し退け、二人が傷にヒールを唱える。が、全く効果が無い。飛散していく手首には、アンチヒールが付加されていた。それで傷を付けられると、魔法で傷は癒せない。
「バカな!」
「やばぃ…やばぃ…リグールが死んじゃうよ…やばぃ…」
「ゴボッ、大丈、夫だ、この程度、なら、俺は、死な、ない…。」
我に返ったジンが、的確に状況を分析する。
「とにかく、この出血ではリグールが死んでしまう!アリシス!背中の傷口を焼きなさい!傷口だけをです!クリスはアンチヒールを解呪出来る医者の手配を!いくらリグールでも五分五分、いや、四分六でマズい。内臓にも損傷があるかもしれない。でも、絶対に死なせません。」
背中以外の傷をヒールで癒しながら、二人に指示を出す。
「う、うん…!リグール、ごめんね…!ファイオ…」「ぐっ、うぅぅぅ!!」
小さな炎で慎重に傷口を焼いていくアリシス。激痛にリグールの顔が歪む。
「わかった!すぐに戻るからな!リグール、しっかりしろよ!」
鎧を脱ぎ捨て、クリスは走り出した。
「この屋敷も長くは持たない、外に運びましょう!」
燃え上がる屋敷も、既に限界だった。立ち上がったジンだが、ふらついて膝をつく。全魔力を使い果たした体は、自分の物じゃないかの様に言う事を聞かない。
「私が…運びます。」
「貴女は…」
ジンが振り向くと、マリーが進んでリグールの体を起こして抱き上げた。
「力仕事には自信があるんです。任せて下さい。」
「ジン…行こう…?」
「…助かります。」
アリシスに肩を借りて、四人は焼け落ちる寸前の屋敷から脱出した。
燃え上がる屋敷の灯りに顔を染めながら、ジンの胸に後悔の念だけが渦巻いていた。
「(得た物も無く、私は何をしていたんだ。)」
「やっぱり、考え、たんだ。俺では、俺達だけでは、頭が、足りない。道順が、わから、ない。」
朦朧とした意識でリグールが続ける。
「『お前の、力が、欲しい』」
言い終わると、リグールは意識を失った。
「まだ…言ってる…」
呆れ顔のアリシスの腕を払い、ジンは泣き崩れた。リグールの言葉は、何より彼が欲しかった一言だった。
それから、クリスの屋敷に運ばれたリグールは、生死の狭間をさまよいながらも一命をとりとめ、少しずつ回復していった。
「…」
「…」
「…あ、起きた…」
「おはよう、リグール。医者を呼んでくる。」
リグールが目を覚ますと、よく知る顔の三人が並んでいた。
クリスは気を利かせて席を外す。王に忠誠を誓っている自分が、友人達に出来る事は、知らぬ存ぜぬを通す事だけだ。

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