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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 218

翌日から、魔導士、政務官補佐の職務を忘れて本に記された魔法や儀式を実践した。足りない魔力は、同じく魔導志に記された禁断の儀式で増幅した。五感の一つと、子孫を残す能力を失ったが、見返りの大きさを考えれば全く問題無かった。
自分の行動を心配する両親さえも相手にしている時間が勿体ない。毎日、毎日、力を得ていく自分を実感し、充実していた。不思議と、妹だけは普段通りに接していた。
二ヶ月が過ぎた頃、ついに、儀式のための生け贄となる人間を求めた。最初に考えたのは、罪人だった。処刑されるべき人間だ、問題は無い。しかし、書類作成や許可の申請で時間が掛かる。
明日にでも、今すぐにでも魔導志の最後のページに記された儀式を行いたい。それが、何に、何をもたらすのか知りたい。自分が初めに求めたものが何だったのか、失う物が重なるにつれて忘れていた。純粋に自分の欲望を肯定し、最後の何かが壊れた。
その日の内に、ジンが足を運んだのは奴隷商人の元だった。屋敷に入ると、媚びへつらう男が、へらへらと笑いながら商品を並べた。マリーと呼ばれた同じ年頃の女性を選び、へらへらと媚びる男の頭を吹き飛ばした。男の笑みは、不愉快だった。
涙を流しながら、感謝の言葉を何度も繰り返す『商品』を見ていたら、可笑しく思えて仕方がなかった。彼女達は、これからどうするつもりなのだろうか。身寄りも無く、また『商品』として捕らえられるのだろうか。
館にあった金品を与えて火を放つと、『商品』達は再び何度も感謝の言葉を繰り返してから闇へ向かい走って行った。
それを見届けた後、屋敷に残ってマリーと呼ばれた『商品』に全てを話した。これから生け贄として死ぬ事も。奴隷商人を殺した事も気紛れだと。それでも、彼女は抵抗一つせずに受け入れた。
「それでも、貴方のお陰で私達は助かりました。」
胸の内から、誰かが何かを訴えていた。まだ間に合う。
『商品』を置き、魔方陣を描く。魔導志に書かれた手順は頭に入っていた。一つ、一つ、手順を踏み、最後の鍵を開いた。
その直後、凄まじい魔力が放たれ、空間がうねりを上げた。そして、人に似た、確実に人では無い異形の何かが現れた。腐った身体から腐臭を漂わせ、黄ばんだ剥き出しの歯が地面に落ちる。
「ジン!」
背後から名を呼ばれ、振り返って見ると、よく知る三人が屋敷に飛び込んできた。
「…」
「ヤバい…ヤバいよ…これ…」
燃え盛る屋敷、魔方陣の中で崩れ落ちる異形の姿、事態を飲み込めないクリスが、ジンの胸元を掴み上げた。
「貴様!何をした!」
「…力を求めた。バルデスを、全ての悪を排除する力。綺麗で、儚く、かけがえの無い物を守る力。」
冷たい目で淡々と話すジンを、クリスが突き飛ばした。
「ふざけるな!アレは何だ!」
「我ハ神。人ノ造リシ絶対ノ神。」
立ち尽くしていたはずのマリーが、白目を向けて男女と区別のつかない声で言葉を話す。
「ジン、ヨクゾ新タナ依リ代ヲ。ダガ、足リヌ。コレデハ駄目ダ。モット、大イナル器ヲ。」
「クリス!」
双剣を握り駆け出したアリシスが声を上げると同時に、素早く剣を抜いたクリスが、左右から合わせるように斬りかかった。
人の神と名乗る者は、それを避けようともせずに、ただゆっくりと歩く。
「!?」
ジンの両手が二人へと向けられ、アリシスとクリスは微動だに出来ない程の魔力で身体を縛り付けられた。
「貴様…」
「ジン…!」
「駄目です。これは私の力です。リグール、貴方ならわかってくれるはずだ」
静かに見つめていたリグールが、剣に手をかける。
「ジン、オ前ノ望ミ、叶エテヤル。人モ、竜モ、獣モ、鬼モ、魔モ、天モ、全テ滅ブ。争イハ無クナリ、世界ハ美シク終ワル。」
「それがお前の望みか!ジン!」
「ジン…」
全ての生を終焉へ導く絶対の存在の解放。それが、魔導志の最終章だった。
「ジン、一発殴るぞ。」
剣から手を離し、リグールは拳を握る。
「リグール、私は」
言い終わる前に、リグールはジンの頬を殴り飛ばした。
「ぐっ!うっ…」
「目が覚めたな?コイツを何とかするぞ。」
「リグー…ル…、私は…何を求めたんでしたっけ…?」
すがるような目で問い掛ける。
「俺は知らん。お前は頭がいいんだから、自分で考えろ。」
親友の突き放したような答えに、ジンの瞳が精気を帯びた。
身動きがとれるようになった二人も、それぞれが囲むように距離をとる。
「ジン、私達はどうすればいい!」
「ジン…」
「私の全魔力で奴を彼女から引き剥がし再び封じます!リグール、クリス、アリシスは奴を抑えて下さい!出来れば、依り代の彼女に傷は…」
「任せろ。」
剣を抜いたリグールの瞳が、金色へと変化して敵へ向けられる。
「油断するな!」
「もち…全力…」
呼吸を合わせて、三方向から攻撃を仕掛けた。
全ての生を終わりに導く者。それを生み出した魔導志の著者。封ずる方法は、その著者しか知らない。しかし、ジンは紛れもなく天才だった。目を閉じて依り代から引き離す魔力を高めると同時に、足りない魔力を補うために禁断の紋章を浮かび上がらせる。
「私は、最後に貴方に会えた。リグール、」
幾多の可能性を模索したが、導かれた方法は一つ。ジン自らを依り代にし、内に封じた奴と共に創造した世界へ。
一度閉じれば二度と開かれない扉が、ジンの背後に現れた。
腕を振ればリグールの全身は切り刻まれ、吐息でアリシスを吹き飛ばし、クリスの全力の斬撃は見えない壁に簡単に阻まれる。ほんの片鱗だけしか解放していない化け物は、絶対的な存在だった。
「共に行きましょう。」
全ての準備を終えたジンが、マリーの身体から引き剥がしにかかる。三人を虫けらのようにしか見ていなかった者が、驚嘆の表情をジンに向けた。
「ジン、オ前ガ裏切ルカ。」
「貴様の仲間になった覚えはありません。」

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