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魔導志
官能リレー小説 - ファンタジー系

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魔導志 217

「まさか。絶対やだ。」
「実際、殺さないように倒すって結構難しいよね〜。でも、事故なら仕方ないと思わない?」
ラカゥの全身から、殺気が漂い始める。対象的に、セガルドは心を鎮めて紅月を鞘に納めると、重心を下げて構えた。
「決戦の時…ってカンジ?んふふ♪綺麗な華を咲かせてあげるよ♪」
「……」
ラカゥの言葉に耳を貸さず、一瞬の時を待つ。
「無視かぁ…じゃ、行くよ?」
大鎌を構え、ラカゥが消える。動かないセガルドの背後から、肩へ目掛けて大鎌を振り下ろした。
が、刃が触れる前に、紅月が、ラカゥの身体を打ち上げた。
「んあっ!」
地面に膝を付き、セガルドを睨む。
「ふぅー、」
深く息を吐き、紅月を再び納めた。
「うぅ〜…いたぁ…なんで?なんで?」
「師匠直伝の、闘気を周囲に張り巡らせる技だ。自分の攻撃範囲内に入った瞬間に、反応出来るように鍛えられたからな。」
周囲の色彩が戻ると、何が起きたのかわからずにざわめく観客。
「あーっと!これは一体!ラカゥ選手が膝を付いている!」
「ありゃ?何が起きた?」「うぬぬ?」
ラカゥの紅雫は、戦闘形態を維持出来なくなり、折り畳まれている。
セガルドは、身体中に無数の傷が刻まれていた。が、しっかりと自分の力で立ちラカゥを見下ろしている。
「これは、決着、と見てよろしいですか?」
「う〜む、そだな。」
「我輩も異論無し。」
「第三試合!セガルド選手の、勝利ですっ!」
ワァァァア!
「ラ〜カゥちゃ〜ん♪俺の勝ち〜♪ウハハハ!」
「くぬぬ…ムカつく…」
敗者相手に高笑いをしながら、セガルドはその場を後にした。
会場を出たラカゥは、項垂れてしょんぼりしながら歩く。それを遮るように、通路でリグールが立ち塞がった。
「負けたか。」
「なによぅ…バカにしようっての?開…」
手にした紅雫が、大鎌に形を変える。鬱憤を晴らすかのように、リグールへ斬りかかった。
「ふん。」
首を動かすだけで斬撃を避けると、そのまま肩にラカゥの体を担ぎ上げる。
「ちょっ!」
「俺が強くしてやろう。そうすれば、セガルドなんか三秒で倒せる。」
「いいっ!いいっ!遠慮しますっ!」
「遠慮するな。ちょうど便利な小間使いも必要だったんだ。」
「やだやだやだ!」
「返事は一回。」
「やだー!」
「聞こえんな。」
そして、ラカゥを担いだリグールは、その場を後にした。
「さぁて、今大会の見処!東門より、ジン・ローファル選手!西門より、ヴェルナルド・シルヴァ選手!」ワァァァア!
東西の方角から、それぞれが入場する。不敵な笑みを浮かべて紅雪を携えたヴェイルに対し、ローブで体を隠したジンの表情からは、一切の感情が見えない。
「さぁ、どう見ます?」
「そうだなぁ。我輩は贔屓目無しの6対4で息子だな。」
「俺はわからん。ヴェイル君の力量もよくわからんし。」
「使えん輩だなぁ。」
「なにを!」
「やるか!」
親父達が取っ組み合いを始める中、ジンの瞳に僅かな殺意が宿っていた。
ジン・ローファル。魔導学校在学中は、万有の才と教官達から称えられた。その頃から、飛び抜けた力を有していたリグール、クリス、アリシスも及ばない。天才の呼称は、彼のためだけのものだった。
しかし、彼は一度だけ、道を踏み外す。たった一冊の本が、彼を壊した。
「…。」
「ジン。俺達と国を変えよう。クリスは難しいだろうが、サーシャ様も、アリシスも…」
「本気ですか?たった数人で、いったい何が出来るのでしょう。本当に、本当に、くだらない。」
夕焼けに染まった広場で、二人の青年がベンチに腰掛けていた。
「そうだな。そうかもしれない。」
「この国は、今そうして循環しているんです。事実を事実と認め、出来る事をするべきだ。貴方には、全てからサーシャ様を守る役目がある。」
「…」
青年が感情を失った事も、その理由も、彼は知っていた。それでも説得しない訳にはいかない。青年は、彼の親友だった。
「確かに、王の見えぬところでバルデスは最低の方法で私腹を肥やしている。が、腐っても将軍。権力は絶大です。今は耐え、彼を討てるだけの…」
「…いや、いい。悪かった。忘れてくれ。」
落胆した様子も見せず、青年は自分の住む家へ足を向ける。
「リグール!セガル君を守るのも貴方の役目だ!」
青年は、振り返らなかった。
彼を止める方法を見つけなければ。ベンチに座ったまま、ジンは夕焼けの空を見上げた。
王女が反逆者に加担した、そんな事実は公表されない。誘拐された王女が、反逆者の手で殺害されるのだ。重罪人は国中から追われて、いずれ捕まり処刑される。それが真実になる。そんな安いシナリオ、愚者のシュバル・オルグランでも思い付く。
「(違う…。私に…彼に代わりバルデスを討てるだけの力があれば…。権力さえも及ばぬ圧倒的な力が…)」
天才と呼ばれていた自分が、今のリグールに届かないのも知っていた。だから、力を求めた。彼の願いを叶える力が欲しかった。
「…?」
石畳の足元を見れば一冊の本。先程までは、確かに何も無かった。
「なんでしょう、これは…」
一人呟きながら、足元の古ぼけた本を拾い上げる。掠れて読みにくい文字であったが、微かに読めた。
「魔導…志…?」
不思議に思い、本を開いてみたが、真っ白なページばかり。
「ゴミ…か…」
他人の落とし物に何を求めたのか。馬鹿馬鹿しくなり本を閉じてベンチに置こうとした時、耳元で、何かが囁いた。
「(力を…解放して…)」
驚き周囲を見渡したが、誰もいない。
「頭に…響いたのか…?」手にした本から、異質な雰囲気が漂った。本能が警告を告げている。しかし、止まらなかった。ジンは、ゆっくりと魔導志を開いた。「これは…」
それなりに、魔導学に精通していると思っていた自分だが、最初のページを読んだだけで魔導志の魅力に取り付かれていた。
日は落ち、辺りに街灯が灯る頃、ジンは魔導志を懐にしまい込み家路についた。

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