魔導志 214
「ちょっ、ちょっと失礼…」
「わ、我輩も…」
呼ばれた二人は、席を外して笑顔の二人と通路口へ消えた。
…
「って訳で、頑張って娘に恥じない解説を心掛けるようにします。」
まるで、こう言えと指示されたように話すジュダの頬には、真っ赤な紅葉が刻まれていた。鼻血が垂れている。
「我輩は、試合が終わったら医者に行こうと思います。」
リクの目には青タンが浮かび、両方の鼻の穴から鼻血が垂れ流れていた。
「あ、あの〜、大丈夫ですか?」
「「階段から落ちただけですから!」」
全く同じジェスチャーで親指を立てる解説の二人。
「で、では……選手!入っ場っ!」
一番最初に闘技場に足を踏み入れたのはリグール。
「ウォォオッ!リグール!優勝だー!」「お前が最強だリグールー!」「仮面のあんちゃーん!頑張ってー!」
観客の声援を浴びながら、一歩ずつ進むリグール。
「グルルルル…人気者じゃないか。」
「はい、我が主は強いんですよ?」
獅子王と白虎王は、一般の観客席で見ていた。
「ケケケッ、リグールの声援は野郎と子供ばかりじゃねーか。」
「セガル!そんな事いっちゃダメだよ!」
「事実だ(笑)」
次に、アリシスが入場する。
「キャーッ!アリシス様ー!」「ウォーッ!猛っ烈ー!こっち見てくれー!」「カッコイイー!キャーッ!」
「スゲー人気だな。」
次々に入場していく選手達。
「アリシスさんすっごく綺麗だし女性にも人気あるからね。あ、次は僕だ。セガル、お先に!」
「やーんっ!ランドくーん!可愛いー!」「頑張ってー!」「お姉さんがついてるよー!アハハ!」
「ぬぬぬ、ランドめ。お姉さん達に大人気じゃないか。よし、ここは俺も…!」セガルドが意気揚々と足を踏み入れた瞬間、いきなりのブーイングが巻き起こった。
「引っ込めこの野郎ー!」「お前みたいなのがいるからこっちに美人が回らねーんだアホー!」「ボケー!」「早漏ー!」
「早漏は関係ないだろ…畜生…」
怒りに震えながら中央へと向かった。隣のランドルフが同情の視線を送っている。すると、それを上回る黄色い声援が上がった。
「キャアアアッ!ジン様ー!ジン様ー!」「こっちを見てー!ジン様ー!」「いやぁーっ!」「ジン様ー!」
笑顔で手を振りながら、ジンはセガルドの隣へ。
「羨まし過ぎて憎い…」
「セガル…顔が恐いよ…」
「ジンー!化粧して抱かせてく…」
一人の男の言葉に、ジンの眼光が鋭く光る。視線の先で、目を凝らして見えるか見えないかの距離に居る男が、糸が切れたように倒れた。
「ちょ、マジかよ…今殺したんじゃないか…?つーか、よく聞き分けられたな…。」
「い、いや、それは大丈夫…多分…」
「多分かよ…シャレにならないぞ…」
背中に冷たいものを感じる二人だった。
「「ワァァァァァアア!」」
「きた、クリスさんだ。やっぱり人気も一番だね。」
「クリス様ー!!」「クリス様ー!!」「クリス様が最強だー!!」「剣聖!!」「剣聖!!」
颯爽と歩みを進めるクリシーヌ・ヴェルナード。選手、観客、全員が彼女に視線を向ける。
「グルルルル…彼女がヴェルナードの末裔だな。」
「はい。リグール様が目指す強さを持つ者です。」
「ワシも過去にヴェルナードの者と戦った事がある。強く、高潔で、義を重んじる優秀な戦士だった。人界からの退け口で、片目で済んだのも彼のお陰だったなぁ。」
「それは知りませんでした。」
「クリシーヌも、リグールも、よい面構えをしておるな。一目見て、強いとわかるぞ。荒獅子と、よい勝負をしそうだわぃ。」
「純粋に、戦ってみたいと思う時もございます。」
「ほぅ、ならは出場すれば良かったではないか。白虎の晴れ姿を見て見たかったが。」
「大好きな友達が、よい気持ちになれません。」
「あら?私は気にしないわよ?」
二人の後ろから、サーシャが声を掛ける。
「サーシャ殿、こちらにいらっしゃったか。」
「サーシャ様!護衛も連れずに!」
「今の人界で、ここより安全な場所は無いよ?でも、大好きな友達だなんて嬉しいな♪」
嬉しそうに白虎王の隣に座る。王の席を見ると、王衣を被せた木人形の顔に「さーしゃ」と、書いてあった。
「また抜け出したんですか!!リグール様が知ったら…」
「いいじゃない♪」
「構わぬ。ワシが身の安全を保証しよう。」
「獅子王様、よろしくお願いいたします♪」
「………」
…
「では、これより…最強決定戦!第一試合を始めます!選手!前へ!」
デイルとメリルを残し、他の選手は闘技場を後にした。
「覚悟は宜しいですねデイル様♪」
「ガハハッ!全力でぶつかってこいメリル!」
…
「お二人は、どちらが有利と見ますか?」
実況席に移ったジュスガーが、手負いの解説二人に話を振る。
「我輩は、7対3でデイル君だな。地力もそうだが、踏んだ場数にもかなりの差がある。」
「うむ、しかしメリルちゃんは成長途中だ。意外性は充分にあるぞ。ちなみに俺の鑑識眼ではバストはBカップだな。」
「なるほど、Bカップですか。」
「俺が言うのも何だけど、そこばっかに食い付かないでくれる?後でクリスに殴られるの俺だからね?」
「し、失礼しました。」
「コイツ昔から考える前に口から出る奴なんだ。」
「やかましいわ!」
「本当の事だろ!」
「お前だってそうだろ!」
「合図合図!試合開始して!」
収拾がつかなくなる前に、ジュスガーがゴングを鳴らすように指示を出す。
ゴングが鳴ると同時に、メリルは飛び出し、距離を詰めながら剣を抜く。
「(デイル様は、あぁ見えて中距離特殊型。近距離での接近戦なら…)」
微動だにしないデイルの胸へ、メリルは突きを放った。が、簡単に貫いた胸からは砂がパラパラと溢れる。
「あれっ!?」
「ガハハハッ!俺はこっちだぞ。」
横を見ると、掌を向けたデイルが、自分の周囲で複数の砂の塊を浮かび上がらせていた。
「おーっと!メリル選手が貫いたのは、デイル選手の作ったハリボテだ!」