魔導志 179
「昔、獣族の内乱のときにヤったことがあってな…烏の一族は獅子の一族と相性がわりぃんだ…」
「へぇ〜…八咫の過去ってあまり知らないんだよね」
「あぁ…俺の半生における数少ない黒星の一つだからなぁ」
八咫は滝夜叉姫を連れ、駆け足で控え室へと向かった。
「アリシス…はしゃぎ過ぎだぞ?」
「あら…私、これでも自重してるのに…」
その会話の間にも鮮やかな剣技の応酬が行われる。
「…ジン君、止めなくていいのか?」
「さすがにやり過ぎですね…止めて来ます」
ジンは魔法転移で一瞬で移動し、会場に現れる。
「止めてください、二人とも…あまりにも大人気ないですよ」
リグールとアリシスは構えたままで動きを止めた。
「ふんっ…そんなことならアリシスに言え」
「…止めないで、ジン…」
「いいえ、止めます。これは私闘ではなく大会なんですよ。あなた達の好きにはさせません」
二人は見つめ合う。そして、どちらからともなく剣を引いた。
「要らん仕事ばかり増やすな。暇じゃないんだ。」
「まったくですね。アリシスの寄行や暴走には慣れたつもりだったんですが、こんな公の場所でまで…」
「うるさぁい…もぉ…邪魔なのはジン…あなた…早く…決着つけたくないの…?あ…おいで〜…」
先程までの雰囲気はどこへやら、アリシスはメリルを呼び寄せ並んで出口へ歩いていった。
その様子を見ている観客席の中で、布で包んだ大鎌を大事そうに抱え込む女性がいた。
「え…?うん…うん…あの人…?ダメだよ…あの人強そうだもん…女王様の旦那さんだよ…?」
女性は盛り上がる観客席の中で、一人うつむきながら何かと話している。
「あ…ごめん…許して…最近はお仕事ないから…欲しいよね…今は我慢して…?ね…?」
「おっと姉ちゃん、せっかくの大会だってのに体の具合でも悪ぃのか〜?へへ…」
その女性に話し掛けたのは、外で八咫達に絡んでいた傭兵達のリーダーだった。「へ…?あ、いぇ、だ、大丈夫ですから♪」
女性はパッと顔を上げ恥ずかしそうに自分の黒髪を撫でる。
「いやいや、無理はよくねぇよ。名前はなんてんだ?」
「ラカゥですけど…ホント大丈夫ですから、あの…」
「よっしゃよっしゃ、ラカゥ、俺が外まで連れていって美味い空気吸わせてやるからよ。来い、野郎ども!」
「あいよっ!へへ…リーダーも好きだねぇ〜。」
「???」
困惑したまま、ラカゥは腕を引っ張られ会場の外まで連れ出された。