魔導志 172
「ああ」
セガルドとセフィリアは会場内の流れとは別の方向へ歩いて行った。
セガルドはゼシカ達が視界から消えた後、呟いた。
「ふぅ…イリスは相変わらず元気が良いな」
「ええ、出会った時からね」
その言葉にセガルドはゼシカ、イリスとの出会いを思い出していた。
「どうしたの?遠い目なんてしちゃって」
「いやな、あいつらに会った時を思い出しちゃって…」
「試験の時ね…覚えてる?あの時、私の初めてを…」
「性格に言うと『私たち』の初めてだけどな」
「本当にあの時、初めてだったの?」
セフィリアはからかう様に言った。
「どうだかな。セガルド様は昔からモテモテだ。」
「何よそれ。答えになってないじゃない。」
笑うセガルドに、不満そうなセフィリア。
「おっと、俺達は東門だ。さっさと行こうぜ。置いて行くぞ?」
歩き出すセガルド。
「もぅ、待って。」
セフィリアはセガルドの後を追う。
…
「…って感じです。リグール、わかりましたか?」
「わからん。なんで俺がこんな格好を…」
その頃、開会式の挨拶の準備をしていたリグール。ジンの指示の元、重々しい鎧と兜を身に付けていた。
「王族としての威厳です。コレが重要ですから。」
そう言いながら、ジンは鎧の胸部にある王家の紋章を見る。
「ふん、こんな動きにくい鎧を着て、戦地に赴けるとは考えられん。」
「ですが、この鎧を装着した王は、アルトバル王に敵は無し…と、隣国から恐れられたそうな。」
「くだらんな。これを売って兵の装備を充実させた方が効率的だろう。」
「ふふ、貴方らしい意見ですね。おや、ジュダ様。」「やぁやぁ、よく似合ってるよリグール君。めちゃくちゃ強そうだねぇ。」
ジュダは満足そうにリグールの頭から爪先まで眺めている。
「…」
「当の本人は不満そうですけどね。ふふ」
「ほ〜ぅ、代々、王家に伝わる鎧が気に入らないとは…」
「い、いぇ…自分は人前に出るのが苦手なので…」
「その言い訳はもう聞き飽きてますよ。サーシャ様の準備はどうですか〜?」
ジンが呼び掛けると、布で仕切られた一角から、付き人のおばさんの返事が聞こえてきた。
「ジン様、もう少しばかりお待ち下さい。」
「ごめんなさ〜いっ、お腹が少しキツくって…」
「…」
「…」
「…」
「ま、待ちますか。」
「そうだな。」
「うむっ!!」
「あっ、セガル!おはよう」
「ようっ、ランド。お前もこっちからだったのか」
「うん。すごい人だね…」
「そうだな。でもあんま、強そうな奴はいないな!」
その声に反応し、周囲からの目線が厳しくなる。
「セガル…声、大きいわよ」
セフィリアが小声で注意した。
「いいんだよ、これぐらい強気な方が。喧嘩は気持ちからってな」
「馬鹿ね、セガルドは。これは闘技会であって喧嘩じゃないのよ」
「リリーはうるさい奴だな…似た様なもんだろ?」
「はぁ…セフィもこんな奴がペアじゃ大変ね」