刄者と鬼 10
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「あら、目が覚めたみたいですね」
ぼやけてはいる視界の中に見覚えのない人影が一つ。話しかけてくるが、いったい誰なんだろうと感じ、目を擦りながら頭を起こそうとする。
「まだ寝ていないとダメですよ。熱もあるみたいですし、傷も全部が塞がってはいないみたいですから…」
声の主は籐弥の肩に手を添えると、起き上がらないように軽く押さえつけた。しかし、籐弥はその手を振り払い、無理矢理に身体を起こし、自分が何処にいるのか、話しかけたのは誰かを確かめるように辺りを見回した。
「ここは…何処だ?…どうして僕はここにいるんだ?……………あなたは誰ですか?」
「やっとお目覚めか?」
目の前に居た人間とは違う声が部屋の外から聞こえたかと思うと、音を立てて引戸が開き、芹那がヅカヅカと自分の方へと近付いてきた。
「ここは俺の家、お前は寝てたの。お前の目の前にいるのは、俺の祖母ちゃん。はい、分かったか?」
あまり説明になっていない説明を聞くと、目の前の芹那に掴みかかるが、逆に腕の傷を掴み返された。
「あんまり変なことすると、傷口広げるぞ」
「こら!!止めなさい芹那。怪我してる子に何て事するの!!」
祖母が声を荒げて芹那の手首を掴むと、大人しく傷口を掴んだ手を離す。
「ごめんね籐弥君。悪い子じゃないんだけど乱暴なところがあって…」
「いえ…別に気に…ん、どうして僕の名前…」
自分の名前も知らないはずの人間に名前を呼ばれた事に驚きが隠せないでいるが、目の前にいる女性はそんなことはお構いなしに微笑んでいる。
どうせ芹那に名前は聞いたのだろうと考えると、自分の名前を呼んだことよりも、目の前にいる女性の事が気なり始めた。芹那は『祖母ちゃん』と言っていたが、見た目はどう見ても世間一般的なお婆さんよりも若々しい。いや、それどころか芹那と姉妹だと言われても納得してしまうような外見の持ち主である。とてもではないが、どう考えてもお祖母さんには見えない。
自分は担がれているのか?それとも今、目にしている出来事は夢か幻なのか?そんな事が頭の中を行ったり来たりして、顔は俯き、段々と表情は険しくなりだす。
「どうしたのかしら?難しい顔をして?」
「多分…変な夢でも見てるんじゃないかって考えてるじゃないか?」
「あら?どうしてそう思うの?」
「普通は思うだろ…祖母ちゃん見たら…」
「それ…どういう事?私を見て何処が変な夢に感じちゃう?」