刄者と鬼 9
「どうして付いてくるんだよ!!」
「別に」
「じゃあ早く消えろよ」
「俺の勝手だ」
「………」
何時まで経っても犬の様に自分の横を並走してくる芹那に、始めこそ声を荒げて追い払おうとしていたが、そのうち言っても無駄だと感じたのか、何も言葉を発しなくなり無言のまま歩き続け、遂には在所に到着するのだった。
芹那は芹那で、別に付いていく必要などないとは分かってはいたのだが、何故か籐弥に興味を引かれるものを感じ、しばらく様子を見よう考えていたのである。
「報償金の手続きお願いします。それと、最新版の手配所の一覧をください」
担いでいた賞金首を在所の床に放り投げると、体を解す様な動きを行い、在所の中の人間に声を掛けた。
「はいはい…」
声をかけられた在所の人間は、テキパキと事務処理を行い、報償金と手配所を籐弥ではなく芹那に手渡した。
「はい、これ。あんまり弟こき使っちゃあダメだよ。…さぁて、渡すものは渡したから帰った帰った」
在所の人間はニコニコしながら二人を追い出すと、野良犬でも追い払うかの如く、手を降りながら在所の扉を閉めてしまった。
締め出された様な扱いに暫くの間呆然と立ち尽くしていたが、ハッと我に返ると芹那に手渡された報償金と手配所の一覧を取り上げた。しかし報償金の大半は芹那の手に残したままであった。
「それやるから、もう付いてこないでくれ」
「はぁ!?金欲しさに付いてきたとでも?ってか、今からどこ行く気だ?」
「今日はもう日が暮れそうだから宿探し。いいから早くどっか行けよ」
後ろを振り返らずにその場から立ち去ろうと足早に今来た道とは反対の道を歩き始める。するとまた芹那が並走するように付いてくる。
「何時まで付いてくるんだよ!!おちょくってるのか」
「そうだよ…ってのは嘘で、この近辺には宿はないぞ」
「はぁ?…なら野宿の場所を探すだけだ」
「…辞めとけ。この辺りは賊の輩がウヨウヨいる」
「馴れてるから大丈夫だよ…ってか何で心配されなきゃいけないんだよ」
暫く歩きながら言い合い続けていたが、あまりにしつこく付いてきながら声を掛けてくる為、思わず立ち止まる。すると芹那が籐弥の片腕を掴み、少し力を入れて握ってきた。
「っ痛!!!…っ放せ」
「お前…怪我してるだろ。普通、こんなぐらいじゃあ、そんなに痛くはないはずだ」
「違っ!!…馬鹿…力で…掴むか…ら……」
芹那は傷口を軽く掴んだだけであったが、籐弥にとっては万力で締め上げられる様な痛みを感じ、その場に倒れ込んで失神してしまった。
倒れ込んだ籐弥を見て、最初はからかっているのだろうと思ったが、何時まで経っても起き上がる気配はなく、自分の掴んだ場所が段々と血に染り、顔からは脂汗を垂らしている姿を見た途端、芹那は籐弥を抱えあげ、自分の住む村まで急いで帰っていった。